上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

立ち姿

 父の死後、一番大変だったのは家財処分である。
 家屋解体も、見ていて、いい気分では無かったが、直接的には、業者の重機が無機的に動き回ったと言う事だ。
 ところが、家財処分は違う。
 私が、捨てるものを判断しなければならない。
 これが、どうにも困難で、とうとう判断は諦めて、家具、調度品、食器等は全て捨ててしまった。
 残ったのは、父母の身の回り品と写真。
 身の回り品も、結局、全て捨てた。残るは、アルバムである。 
 父母の写真を捨てるのは、当然、初めての経験だから、随分と迷ったものだ。
 でも、考えても、沢山のアルバムを置く場所も無いのである。
 それは、姉も兄も同じであった。
 しかし、一枚、一枚見ていると、構わず、捨てて良い写真というのは、余り無いのである。
 それで、最後は、判断不能、もう何も見ずに、一切、捨てる事にした。
 要するに、色々と時間を掛けたが、結局、全部、捨てる事になったのである。
 だから、今も残っている父母の写真は、葬儀に飾られていた写真と、後は、京都旅行の時の写真、十数枚のみである。
 この経験から、父亡き後は、老妻と旅行に出かけても、私自身は、もう写真を撮ったり、記念品を買う事はしなくなった。    
 去年、上野不忍池で、老妻の写真は撮ったが、私のは、撮らなかった。
 記念の写真を撮っても、そう遠くない日に、それらの写真は、ゴミ袋に入って、市の焼却炉に放り込まれるだけだ。 
 ならば、写真など撮っても無駄な事である。
 さて、先日、時間があったので、また、写真の整理を始めた。こうして、毎回、少しずつ、減らして行くのである。一気に判断するのは難しいからだ。  
 まず、今回捨てるターゲットは、集合写真である。
 現役の時は、研修とか、慰安旅行とか、何かにつけて、よく全体写真を撮った。
 今となっては、まるで意味なし。
 それどころか、気に食わなかった野郎もいるから、捨てるのに迷いは、一切無い。
 そしたら、沢山の写真をかき回していると、一枚の写真が指に引っかかった。
 見ると、素敵な女子高生、立ち姿の写真である。
 高校三年の時に、付き合った子である。
 思わず、手に取り、暫く、作業を中断して、じっと見た。
 高校時代、この時期、女の人生でも、一番綺麗な時の写真である。 
 現像の様子と、印画紙もしっかりしてるから、これは素人写真では無い。
 さて、どうしたら、よいか。
 あれは五月頃で、もう汗ばむ位の日だった。
 高校からの帰り道、勉強ばかりの日々にウンザリし、下を向いて歩いていた。
 すると、自転車の気配がしたから、何気なく顔を上げた。
 自転車の女の子は、中学時代の後輩だと、すぐに分かった。
 側に来た時、私は、自分でも予期してなかった言葉が、不意に飛び出しました。
「明日、遊びに行って良いかい?」
 中学の時、話した事はあるが、自宅を訪ねた事は一度も無かった。
 きっと、高校生活がつまらなくて、それから脱出したかったのでしょう。
 それから、彼女との付き合いが始まった。
 とても良い子で、おまけに美人で、言う事なし、でした。
 でも、私は、高校三年生で、受験の時ですから、本当は、女の子と付き合っている時期では無かった。
 しかし、当時、身体を壊して、もう現役での進学を諦めていたので、いや、それもありましたが、正直に言えば、やはり、押さえようのない青春の欲望でしょう。 
 この時代は、俗に、男は一番、性欲が強いと言われています。
 だから、もう付き合いだしたら、途中で止まる事は無かった。
 夜、彼女の家に行き、窓の外から、小さな声で呼ぶと、窓が少し開いて、彼女と長く話す事が出来ました。
 時には、彼女がピアノを弾いていましたから、その曲に、終わるまで耳を傾ける事もありました。
 でも、家の中に上がる事は無かった。 
 うるさい家人がいたからです。
 その内、彼女は、私の家にも来るようになりました。 
 そしたら、冬休みの頃だったと思いますが、うるさい家人が気付いて、怒鳴り込んで来たのです。
 それで、付き合いは、中断となりました。
 翌年、浪人してから、大学に入りました。
 そしたら、彼女から、久し振りに連絡があって、逢う事になりました。
 でも、暫くぶりに逢っても、何故か、嘗ての情熱は消えていました。
 高校時代、男子も、心が不安定で、日々揺れ動いて、自分でも、何を考えているのか、分からない時があります。 
 恐らく、長く逢っていなかったから、いつの間にか、気持ちが遠のいて居たんだと思います。
 でも、今は、彼女が元気であれば、是非、逢ってみたいなと思います。 
 ところで、この写真は、恐らく、彼女の父親が町の写真屋で作らせたアルバムから、彼女が抜き取って、私に、くれたのだと思います。
 間違いなく、高価な写真です。
 うーん、迷いますね。返すか、ゴミ箱に入れるか。
 返すのは簡単です。
 と言うのは、彼女の家は、多分、今は、姉妹が住んで居ると思いますが、そのポストに入れれば、すぐに事情は分かり、写真は彼女の手に戻る事になると思います。
 それが一番良いのかなと思いますが、でも、随分と昔の事だし、何も今更、改めて返さなくても良いのでは、とも思うのです。
 さてと、この写真、返還するべきか、それとも、ゴミ箱に捨てるべきか。
 これが写真で無くて、何か贈り物、ペンダントとかなら、迷わず、ゴミ箱に捨てるのですがね。
 まあ、急ぐ事でも無いので、暫く、処置を考える事にします。
<あの、上州無線さんが、迷う理由が分かりましたよ>
<理由だって? 理由なんて何も無いよ>
<いやいや、明白ですよ。返す相手がピチピチギャルでないからです>
<いつもの邪推だな、それは>
<美人の彼女も、今や古稀過ぎたお婆さん、だから、今更、返しても無駄だと> 
<まさか、そんな所まで考えてないよ>
<それは、無意識下の拒否、男は妊娠出来ない女に、用はないんでしょう?> 
<その奇妙な知識は、何処で覚えたのかね。悪いけど、用事なんで、これで失礼するよ> 

俳句


思い出は 全て消え行く セピア色