上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

遺伝子

 先日、台所のファンの掃除をした。
 毎年、12月になったら、やるのが恒例なのだが、色々あって、実行出来なかった。
 もう羽が、すっかり油塗れになっているので、取り外して洗剤で洗わなければならない。
 軍手を用意、それと汚れても構わない服に着替えて、いざ、作業開始となった。
 ところで、老妻も助手として参加してもらうと、作業も楽になるので、声を掛けようと思ったら、生憎、老妻は、昼寝の最中だった。
 いつもながら、タイミングの良い昼寝である。
 もしかして、私が階段を駆け下りる、足音を聞いて、素早くベッドに飛び込んだのかも知れない。
 何しろ、いつも、服を着たまま、ベッドで昼寝する人なので、偽装昼寝は、いとも簡単にできてしまう。
 恐らく、朝飯を一人で食べていた、私が、今日は換気扇の掃除をしようかなと、呟いていたのを小耳に挟んだに違いない。
 でもまあ、目の前で寝てる子は、起こす訳には行かない。
 なので、単独で汚れた換気扇と相対した。
 まず、油滴フィルターとファンカバーを外す。これは簡単。但し、溜まっていた油が垂れるから、要注意だ。
 次に、羽を止めている固定具を回して、回転羽を外す。
 固定具は右ネジ。ファンは左回転。だから、回転すると、自然に締まり、羽が何時までも緩まないようになっている。 
 去年、外す時の事を考え、軽く締めたのに、もう、かなり硬く締まっている。
 それで、外そうと、懸命に力を入れるのだが、なかなか腕に力が入らない。
 一般的に、能率的作業のためには、段取りという言葉があるが、加えて、作業をする位置も大事である。
 効果的な体勢が取れないと、作業は、なかなか捗らないものである。
 今回は、狭い換気扇フード内の作業だから、適切な姿勢が取れないのだ。
 また、うっかり、換気扇フードの内壁に触れると、汚れた油が、頭や衣服にベットリと付着するから、それもあって、動作の自由度が低下せざるを得ない。
 やる事は、至極簡単なのだが、場所が場所だけに大変なのだ。
 ガスレンジと脚立、それぞれに脚を乗せて、何とか姿勢を確保して、後は、ともかく、慎重にやるしかない。
 それでも、少しずつ揺すりながら、何度も力を入れたら、やっと固定具が外れた。
 これが出来れば、後は、取り外したカバーと回転羽を洗剤で綺麗に洗って、元に戻せば、作業はお終いだ。
 しつこい油汚れは、なかなか落ちないので、スチールウールに洗剤を付けて、後は、とにかく、根気である。
 流し場での作業だから、どうしても、ガタゴト音がする。
 時々、意図的に、少し大きめの音を立ててみたが、老妻が、起きて来そうな気配は、微塵も無かった。
 とにかく、幸せな人で、何処までも強運の持ち主である。
 だから、今までも、有名な宝くじを初め、色んな籤に当たったのである。
 ついでに、人生の宝くじで、良い夫にも、当たったのだ。
 一方、私は、余り籤に当たった記憶は無い。 
 となると、私は籤運が悪いのかも知れない。
 もしかして、老妻は、私の籤運の悪さを象徴して居るのだろうか。
 いやいや、そんな事は無い。
 私よりも長生きする確率が100%の人は、なかなか居るものでは無い。
 喪主をしてくれる人に当たったのだから、こんな幸運は無い。
 だから、私も籤運は、けっして、悪くは無いと言う事だ。
 油落としは、単調な作業だから、何か、考え事でもしながら、やるしかない。
 約一時間後、漸く、カバーと回転羽の汚れを綺麗に除去する事が出来た。
 前面の和紙フィルターも新しいのに交換した。
 電気系統は、一切、いじってないが、一応、念のため、スイッチを入れる。
 真っ白な羽が音も無く、回り出した。うまく行きましたね。
 床や周りに垂れた油を拭き取り、汚れた軍手をゴミ箱に放り込んで、換気扇の掃除は、無事終了した。
 下に降りて、やれやれとホッとする。 
 こんな簡単な作業でも、足を滑らせて、レンジ台から逆さまに落ちれば、大怪我をするだろう。
 庭木の剪定作業で、老人が脚立から転落、大怪我の話は、よく聞く事である。
 最後に、もう一度、スイッチを入れ直す。大丈夫だ、上手く回転している。
 そしたら、台所の戸が急に開いて、老妻が入って来た。 
 午後の昼寝から覚めたらしい。
「すごい綺麗になったねえ、まるで新品みたい」
 まあ、褒められれば、悪い気はしない。それで、偽装昼寝は忘れる事にした。
 ところで、このファンを掃除すると、父の事を思い出す。
 亡父は、仕事一筋で、真面目の塊みたいな、大正生まれの男でした。
 仕事一筋の人だったから、生活上の楽しみが無かったですね。
 趣味と言えば、若い頃にやっていた川釣り位で、それも、退職する頃には、もう、ほとんど止めてた。
 なので、退職後は、当然の事として、暇を持て余した。
 それで、父も、色々考えた挙句、思いついたのが、息子の家に来て、庭木の剪定や、掃除をする事だったようです。
 決して、私の方から、親父に来てくれ、と頼んだ事は、一度も無かった。 
 それで、ある時、父は、この台所ファンの掃除を思いついたんですね。
 油で、ひどく汚れているから、掃除の、やり甲斐があります。
 ところが、羽の掃除だけで終わらず、換気扇フードの内壁まで、掃除しようとしたらしい。
 暇ですから、汚れた所は、全部綺麗にしようと思ったんでしょう。
 しかし、そのフードを取り外すためには、100ボルトの電気配線が邪魔なんです。
 それで、次に、電気配線を外そうと、壁に取り付けてあるコンセントを外した。
 でも、外してみたものの、電線は繋がっているのだから、どうしても、フードは取り外せません。
 それで、フードの掃除は諦めたのですが、外した電気配線の方は、空中にぶらぶらしたままでした。
 父は、木工の名人でしたが、電気の事は、全然知らなかったので、元に戻せなかったのです。
 見た目は、何か危ない感じはしますが、絶縁被覆は完全なので、放置したままでも、危険はありません。
 でも、見かけが悪いですから、老妻は、ひどく心配したものです。
 老妻に言われても、私は、当時、仕事が忙しく、修理する暇がありませんでした。
 ファンの掃除は、実に有り難かったのですが、電気配線が放置になったので、親父はもう余分な事はしなくても良いのに、と思いました。
 私は、その時から、父の作業に批判的な気持ちになったのです。 
 この気持ちこそが、次の、とんでもない言葉の引き金となってしまったのです。
 さて、父は、ファン掃除の後も、引き続き、我が家に来ては、何かをして居ました。
 ある日の夕方、私が帰宅すると、父の車が庭先にありました。
 また余分な事をしなければ良いが、と思いました。
 何処だろう、裏の方に廻ると、壁に向かって何かしている父の姿が見えました。
 近づくと、父は、何と、家の壁にペンキを塗っていました。
 自宅の外壁は、メーカーの工場生産で作られた、しっかりした外壁なので、そもそも、塗る必要は無いのです。 
 それに、よく見ると、従来の壁色とは、かなり違う色を塗っていました。
 全く、不要な作業である事と、色が違う事で、私は一気に、不機嫌となりました。
 父の側に行くと、自分でも信じられない言葉が、私の口から飛び出しました。  
 「親父さん、この家は、おもちゃじゃ無いんだ。この家で遊ぶのは止めてくれないか」
 父は、私の激しい言葉を聞くと、刷毛を持ったまま、それから、壁を、暫く、じっと見つめていました。
 暫くして、父は、黙って、塗装道具を片付けを始めました。 
 その日を最後に、父は、二度と、我が家に来なくなりました。
 さすがの父も、この馬鹿息子の、この言葉には、怒るよりも、落ち込んだ事でしょう。
 言った後で、ひどい事、言っちゃったな、と私は、すぐに反省しました。
 でも、父とは、ずっと、気持ちが通わず、折り合いが悪かったですから、その時、素直に、謝れませんでした。
 今でも、すぐ謝らなかった自分は、何と言うか、何と形容するか、言いようがありませんが、ともかく、人間失格の自分でした。
 さて、私自身が退職して、初めて、当時の父の気持ち、それが、一層、良く分かるようになりました。
 息子の家に来て、何か作業をするのが、父の唯一の楽しみだった。
 我が家は、鉄骨造りで大きいけれど、高級な家でもなく、唯の平凡な家です。
 であれば、好きなように、父のおもちゃとして、使ってもらえば良かったのです。
 私の父は、大柄な男で、子どもの頃、柔道を教えてくれた時の、父は、とても強くて、大きかったです。
 ところが、刷毛を持ち、壁を見つめていた父は、不思議な事に、とても小さく見えたものです。
 もう少し、父を大事にしてやれば良かったなと、今になって、ひどく後悔しています。
 孝行したい時に親はなし、とは、よく言ったものですね。 
 天国の親父さん、声は届かないと思うけど、あの時は、悪かったね。
 まあ、いくら謝っても遅いけど、謝れば、私の気持ちは、少しだけ楽になります。
 どうも、私は、父とは、かなり遺伝子配列が違ったようです。
 それ故に、真面目で堅物の父とは、ずっと気が合わなかったのだと思います。 
 だから、偶に、何処かで、仲の良い親子を見ると、いつも羨ましくは、なります。
 でも、もう仕方ない、ここまで来たら、私は私です。
 私流の生き方しか出来なかったし、これからも、余生短いけれど、美しいミニスカを追い掛けるだけです。
 と言うのも、ミニスカの中に、人間とは何かが、存在してるように思えるからです。
 それにしても、私が、父の通夜を抜けだし、女とホテルへ行った事を知ったら、堅物の父は、間違いなく、仰天したと思います。
 余りにも、びっくりして、もしかしたら、私を説教するために、命を掛けて棺箱を飛びだしたと思います。 
 美人で気の強い女でしたが、欠点は、どうにも聞き分けが無かったです。
 親が死んだので、明日は逢えないよ、と言ったら、どうしても信用しませんでした。
 私が、嘘を言って逢わない、と思っているのです。
「今夜、絶対、来なきゃあ、あたしは、もう逢わないからね」 
 それで、通夜の日でしたが、馬鹿息子は仕方なく、ええ、仕方なく、行ったのです。
 行ったら、ともかく、女は大喜びしました。
 でも、まだ通夜だとは、信用しなかったので、ポケットから葬儀屋の印刷物を見せました。
「えっ、本当に通夜だったのね」
 通夜が事実だと分かったら、さすがに女も呆れるだろうと思いました。
 でも、逆で、その瞬間、女は、何かに感動して、私に飛び付いて来ました。
 さて、バカ息子の性欲ゼンマイは、歳にも関わらず、かなり強力みたいです。
 まだまだ、全部解けきるには、かなりの時間がかかりそうです。
 果てしなき煩悩追求の人生は、当分は、続く事と思います。
 何か脱線したようですが、本日は忙しいので、このままアップします。
      



俳句


ともかくも 死ぬまで色気 失わず