上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

芸者小鈴

 鈴懸の径と言う歌謡曲を覚えたのは、大学に入ってからだと思う。
 気がついたら覚えていて、何かの折りに、よく歌っていた。
 メロディーも歌詞も、なかなかのものである。
 ビクターレコードから発売されたのが、1942年と言うから、戦前の歌である。
 勿論、その時、私は、母のお腹にも存在していなかった。
 立教大学構内にある鈴懸並木が、この歌のイメージで、歌の記念碑もあるらしい。
 最初、この歌を覚えた時、小鈴と言うのは、芸者の名前だとばかり思っていた。
 要するに、まだ若い芸者と、学生が肩を寄せ合い、鈴掛の並木径を歩いている、と言う場面だと思った。
 そしたら、ある時、単なる鈴と分かり、途端に、ひどく落胆したものだ。
 でも、どうしても、この歌は、友とだけでなく、美しき恋人と鈴懸の並木道を歩いた歌だと思いたい。
 また、そうだと思う。
 それは、二番を見れば、納得がいく。
 澄んだ瞳は、紛れもなく、好きな女の瞳である。
 まさか、男の友人の瞳に、男が、こんな想いは抱くまい。
 だから、この歌は、歌詞を多少変えて、本来は、二番をメインとするべきものであると言うのが、私の要望である。 
 さて、歌詞は、以下の通り。三番まであるが省略。
 例によって、著作権者には、内緒である。   
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鈴懸の径 (1942年発売)


作詞 佐伯孝夫
作曲 灰田晴彦
友と語らん 鈴懸の径
通いなれたる 学校(まなびや)の街
やさしの小鈴 葉かげに鳴れば
夢はかえるよ 鈴懸の径


熱き想いを 心にこめて
澄んだひとみは 青空映す
窓辺の花に ほほを寄せれば
夢はかえるよ 鈴懸の径
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 それにしても、二次大戦勃発直前の時期に、よくもまあ、発売されたものだ。
 普通なら、軟弱歌謡曲として、発禁になっていた筈である。
 鈴懸の木は、プラタナスと言う事だが、これは、先日、亡くなった端田宣彦の風にも登場する。
 言葉が、詩的な響きを持ってるせいか、歌謡曲には、よく登場するのだろう。 
 以下は小説です。念のため。 
 ある時、彼女のアパートで、鈴懸の径を歌った。
 そしたら、歌っている、仰向けの私の胸に、そっと、彼女が顔を埋めて来た。
 歌い終わったら、彼女が、すぐに言った。
「ねえ、もう一度、歌ってよ」
 歌が上手だと思ったことはないが、どこか、私の歌声を気に入ったらしい。
 ならば、ご要望に応えてとばかり、一段と、声を張り上げて歌った。
「すごい、すごい」
 そんなにまで感動しなくてもと思ったが、もしかすると、私の低い声が好きなのかも知れない。
「あんまり褒めてなくも良いよ。この歌、好きなんだ?」
「ううん、貴方の胸が楽器みたいに振動していたの」
「何だ、そんなことか」
 すごいのは、歌では無かった。 
 それならば、もっと低音の歌をと思い、ステンカ・ラージンを歌った。
 低音が連続する歌だから、私自身にも、胸が強く振動するのが分かった。
 彼女は、胸の振動をすべて捕まえようと、力一杯、私の胸を抱き締めていた。
 歌い終わると、彼女は身体を半分起こして、小さく呟いた。
「ねえ、あたしが、好きな彼氏を振って、貴方の所に来たこと、忘れないでね」
 それだけの犠牲を払って来たのだから、十分、対価を払って欲しいと言うことだ。
 実に、気の毒な彼氏だった。
 彼女が私と出逢ったことで、いとも簡単に振られてしまったのだ。
 本当は、その彼と結婚してた方が、一番幸せだったと思う。
 でも、逢った日から、どんどん私を好きになって、近づいて来たのである。
 ある日、「明日、あたし、言うからね」と言った。
 何を言うかと思っていたら、喫茶店で、独り言のように言った。
「貴方と付き合うと決めたの、もう決めたの」
「うーん、そう・・・ですか」
「もう決めたの、一度決めたものは、あたし、変えないの」
 何んでも、一人で、どんどん決めていく女だった。
 うら若き女の情熱は、どうにも止めようが無かった。  
 数年後、彼女は、私の言葉を黙って聞いていた。
 しかし、聞き終わると、やがて、すすり泣きを始めた。
 それから、ものすごい大声で泣き出した。
 さすが、音大の声楽科出身だった。
 日々の鍛錬は嘘ではなかった。彼女の泣き声は、広い駐車場の隅々まで、救急車のサイレンのように響き渡った。
 三ヶ月後、新しい男が見つかったと連絡して来た。
「でも、結婚してからも、ずっと、貴方と付き合うからね」
 電話の声は、もうサバサバとした声であった。
 どうも、女は、三日も経てば、別れの悲しさを、すっかり、忘れることが出来るらしい。
 とにかく、情熱的で、一度決めたら、もう振り向かず、そのまま人生行路を一直線に疾走して行く女だった。
 彼女の濃い眉毛と鋭い目を見ると、いつも、真っ赤なドレスを着て、フラメンコを一心に踊りまくる、あの闘牛士のカルメンを思いだしたものです。
 若い女の情熱は、若い男にも決して負けないものと、初めて知りました。
 でも、結婚してからは、二度と逢わなかった。   
 活力旺盛な女だったから、結婚して、地味な家庭生活に満足したとは思えない。
 恐らく、何処か、遠い空の下で、見知らぬ男と歩いているのでは無いかと思う。
 でも、それで幸せならば、それでいい。
 よく分からないが、それが、人生と言うものなんだろう。
 小説終わり。 
 久し振りに鈴懸の径を歌ってみた。
 何時か、何処かで、黒留め袖の素敵な芸者、小鈴に、ぜひ逢いたいものです。
 もしも、小鈴に逢えたら、秋晴れの穏やかな日、彼女と肩を並べて、鈴懸の葉が散る径を歩いてみたいです。
 だから、私の、ブログアイコンは、黒留め袖の女なのです。




俳句


並木径 スカート揺らし 走り来る