上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

危機一髪

 現在、私は酒も飲まないし、煙草も吸わない。
 元々、酒は、それほど飲みたいと思ってなかった。
 仕事上の付き合いで、仕方なく、宴会等、二次会で飲んでいただけである。
 だから、仕事上の付き合いが無くなると、飲酒は自然に止めてしまった。 
 だが、煙草の方は、一寸、違う。
 亡父が超ヘビースモーカーだった。だから、中学生の頃から、親父公認の元で吸っていた。
 勿論、模範生徒だったから、中学校のトイレで吸うような真似はしなかった。
 まあ、親父譲りの体質で、煙草は合っていたのかも知れない。
 でも、その後、色々な情報を得ると、やはり、煙草、これは麻薬にも劣らない位の物質だと認識する様になった。
 よく禁煙が大変だと言うが、私の場合、一旦、危険だという認識が明確に確立したら、もう、何の困難も無く、煙草を止める事が出来た。
 この辺は、やはり数学物理系の人間だと言う事なのかも知れない。
 さて、私は飲酒も喫煙もしないから、この点に関しては、老妻の評価は極めて良い。
「家はね、酒も煙草も吸わないで、とても真面目な人だから、有り難いですよ」等と、近所の小母さん達と、話しているのを何度も聞いた事がある。
 まあ、うんと感謝されても、特に、禁酒禁煙に努力した訳でも無いので、何か面映ゆい気がする。  
 聞く所によれば、老妻の父、義父は、余り頑健では無かったのに、かなり酒を飲み、それで周囲に迷惑を掛けたらしい。
 その事があったから、私の酒に対する、老妻の感想は、高評価なのだろう。
 そう言えば、私の祖父も大酒豪だった。
 毎回、大酒飲んで、自分の娘(母の事)の家に寄る時、付近の川に落ちていたものだ。不思議と死ぬ事は無かった。
 もし、私が、酒豪の祖父に似ていたら、どうなっていただろうか。
 若い時は、腕力もあったから、恐らく、飲んだら、余り良い状況に巡り会う事はなかったと思う。
 とは言え、酒での失敗が、全くなかったかと言えば、そうでもない。
 一応、現役の頃は、付き合い酒は飲んでいたから、宴会の場で、先輩と激しく口論したり、平手で殴ったりした事もあった。
 まあ、いずれも、幸い、大事にならず、済んだ。
 しかし、酒の事で、一度だけ、九死に一生を得た思い出がある。
 あれは、酒好きな彼女と付き合っていた頃だ。
 大学を出たばかりの彼女だったが、女なのに、猛烈な酒豪だった。
 それで、二人は逢えば、必ず、夜遅くまで飲んだ。
 でも、やる事はちゃんとやりました。
 酒と女、好きなだけ出来た、両手に花の時代でした。 
 若かったんですねえ。そのエネルギーは、まさに無限でした。
 綺麗な子で、美脚と容姿と色気、三拍子揃った子でした。
 あんな子は、その後、もう二度とお目にかかれませんでした。
 それで、ある日、私は、彼女のアパートに行きました。
 でも、翌日が人間ドックだったので、今夜は飲まない、と決めていました。
 飲酒して、悪い検査値が出ると困る訳からです。
 と言うのも、ずっと前の事ですが、風邪を引いている時に、無理して、ドックで検査したら、何と心筋梗塞の疑いがあり、指摘されてしまったのです。
 それで、もう大騒ぎした事があったのです。
 体調の悪い時や、飲酒時は、不正確な数値が出るのですね。
 それで、その晩も遅くまで、楽しんでましたが、とにかく、飲まなかったのです。
 ところが、ビールが瓶に半分位、残ってテーブルにあったのです。
 そしたら、彼女が、「飲んでよ、こんな位平気よ」と言ったのです。
 酒飲みは、誰でもそうですが、相手が飲まないと寂しいんですね。
 ずっと、飲まず、抱くだけでしたから、とうとう、彼女、残りの酒に託けて、私に飲ませようとしたんです。
 まあ、それ位ならと、彼女の気持ちも察して、つい、瓶を手にしたまま、飲んだのです。
 それで、彼女も、一層、機嫌良くなって、更に、また頑張った訳です。
 若い時って、飲んで、やって、それだけなんですね。
 今、流行りの不倫と同じです。
 ところが、酔った彼女が、突然、言い出したのです。
「これから、関越を突っ走りたいな。ねえ、水上辺りに行こうよ」 
 もう、夜の10時近かったと思います。
 いい女でしたが、どうも、酔うと、時々、とんでもない事を言う癖がありました。
 関越道は、谷川岳が好きでしたから、私は、よく行っていたので、仕方ない、一寸走れば気が済むだろうと思い、行く事にしました。
 もう、その時には、私がビールを半分飲んだ事は、すっかり、二人とも忘れていたのです。 
 飲酒して、高速道路、これは大変な事です。
 テレビならば、ここで長いコマーシャルが入る所かも知れません。
 果たして、大変な事が起きてしまったのです。
 確か、ゲートを潜って、暫く走ったと思います。
 ものの10分か、そこらでした。
 突然、前方に赤い点滅が見えました。近づくと、ランプを手にした警察官が見えました。
 そのまま、ゆっくりと側道に誘導されました。  
 警察の非常警戒線に引っかかってしまったのです。何か、あったのでしょうか。
 その瞬間、私は、ビールを飲んだ事を思い出したのです。
 その途端、頭に血が上り、もう思考困難になりました。
 我が人生、最大の危機に遭遇してしまいました。
 人定質問だけならば、何とか切り抜けられると思いましたが、これは、必ず、飲酒検査をすると思いました。
 窓ガラスを下げると、警察官が側に来ました。
「どうも、お忙しい所、済みませんね。どちらに行かれますか」
「一寸、水上の方です」  
「そうですか、これに息を吹き込んで頂けますか」
 やはり、来ました。万事休す、です。
 我が人生、もう終わりです。
 公務員でしたから、免停、行政処分、この先の人生、真っ暗は確実でした。
 警察官は、何か、マイクのようなものを差し出しました。
 いわゆる風船では無かったです。
「ここに息を吹きかけてもらえますか」
「はい」
 その瞬間、閃いたのです。
 このデバイスは、呼気を感知し、そのアルコール値を解析するのだろう。ならば、呼気を与えなければ、アルコール数値はゼロになる筈。
 さすが、第一級アマチュア無線技士です。
 冷静に機器の仕掛けを見抜きました。
 そこで、息を吐く振りだけをしました。
 更に、「あーっ、あーっ」と声も添えて、如何にも息を吐いているように、必死に演技したのです。    
 今思うと、絶体絶命の場面でしたが、天の神が、普段、極めて善良なる私を助けてくれたのです。
 これが、もし、検査機器が、いわゆる風船方式だったら、私が危機脱出をする事は、不可能だった事でしょう。
 何故なら、息を出す振りは出来ないからです。
 息を出さなければ、風船は膨らみませんから。
 さて、これで、うまく行くと思いました。
 そしたら、何と、目の前で、私が持ってる検査器のランプが赤く光ったのです。
 これはアルコールを感知したという意味だと、すぐに分かりました。
 アマチュア無線家ですから、電子機器の動作は手に取るように分かるのです。
 息を吹きかけた検査機を警察官に渡しました。
 きっとすぐに、パトカーに連れて行かれると思いました。
 ところが、その警察官、一寸、考え込んでいました。
「あれ、おかしいな、どうしたんだろう?」
 推察ですが、私が、堂々と躊躇する事無く、笑顔で検査に応じたので、その態度からして、もう、この人は、事件の容疑者でもないし、飲酒運転者でも無いと、その警察官は、勝手に思い込んでしまったようです。
 ところが、良さげな人だと思ったのに、検査機器が赤を表示したので、はてな?、と思ったのでしょう。
「そうか、リセットをしてなかったんだな」
 警察官は、独り言を言うと、再び、マイクの形をした検査機器を私に差し出しました。
「すみません、もう一度やってもらえますか。セットし忘れました」
 これは、もう、絶対に、息を出してはならないと思いました。
 かなり感度の良い検知機だと分かりました。
 それで、2回目は、もっと工夫をしました。
 1回目は、声を出して、息を出さないようにしましたが、これでは不十分。
 2回目は、少し息を吸い気味にして、声では無く、喉を少し鳴らしたのです。
 さて、その結果は?
「どうも、お手数を掛けました。行って結構ですよ」   
「そうですか、お寒い中、お疲れ様です。じゃあ、失礼します」
 警察官は、笑顔を浮かべて、私を送り出してくれました。
 決して慌てず、嬉しさをひた隠して、ゆっくりと走り出しました。 
 次のインターが何処であろうと、構わず、降りた事は言うまでもありません。
 でも、高速を降りた、近くのホームセンターで、ずっと、動けませんでした。
 下道だって、掴まる時は、掴まりますからね。
 三時間位、冷ましてから、水を沢山飲んで、再び走りました。
 まさに、絶体絶命の危機でしたが、その中に、思えば、幸運もあったのです。
 本当に、命拾いしました。
<上州無線さん、その彼女とは、それから、どうなったんですか?> 
<大酒飲みだったから、どうも酒癖が悪くてね。名器だったけど、仕方なく下取りに出しました。その後、二人子供を産んだと聞いたけどね> 


俳句


女はね 飲まない方が 良いみたい