上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

午後の書斎

 昨日の昼過ぎ、書斎で本を読んでいたら、老妻が足音高く入って来ました。
 元陸上選手ですから、歳を取っても、走るのは得意です。
 ですから、いつも、家の中を走り回っています。とても古稀近い女性とは思えません。
「ねえ、変な葉書が来たよ」
 珍しく老妻の表情には、かなりの緊張が走っています。
 手渡された葉書を見ると、普通の葉書に何やら、細かい字が、沢山印刷されています。
 文面は、概略、以下の様でした。
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 貴女の消費税納入の事で、貴女は告訴され、裁判が起きようとしています。もし、これを回避したいのであれば、下記の電話番号に、一週間以内に連絡を入れて下さい。
 その期間を過ぎてしまうと、直ちに裁判が開始されてしまいます。
 出来るだけ早く、下記に連絡される事をお勧めします。
 TEL 123-〇〇〇〇-4567
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 他に裁判処理の番号や、該当する条文など、如何にも、それらしい単語が羅列されていました。
「何なんだい、これは?」
「まあ、オレオレ詐欺と似たようなもんだよ。破いてゴミ箱に入れれば良い」
 私の説明を聞いて、老妻は、やっと、安心したようです。
「あたしは、何もしていないのに、こんなの、来るはずも無いよ」
「うん、だから、心配する事は何も無いさ」
 老妻が出て行った後、私は、椅子に寄りかかり、一寸、考え込んでしまいました。
 オレオレ詐欺の事件が報じられる度に、私は、いつも、こんな事、本当なのだろうか、と半信半疑でした。
 と言うのも、電話で声を聞けば、本当の息子の声か、どうか、容易に判定出来る筈と思ったからです。   
 それなのに、簡単に騙されてしまう、のは、どう言う事か。
 その疑念が氷解したように思いました。
 即ち、老齢になると、人間は、一寸した、見慣れない事に対応出来なくなってしまうのだろう、と言う事です。
 因みに、書斎に入って来た時の老妻の表情は、まさに、不安の塊、そのものでした。
 老妻は、ずっと以前ですが、
「貴女は、今回、一等賞に当たりました。ついては、2万円の特典が受けられます。すぐに弊社の商品を購入して下さい」
 と言う、ダイレクトメールに飛び上がって喜んだものです。
 その位、純粋な人ですから、今回、もし、私が側に居なければ、裁判という言葉で、もう、気が動転し、判断力を喪失して、すぐにでも電話を掛けていたと思われます。
 すると、相手は、電話番号を知る事になりますから、今度は、また、別の手段を使って、詐欺を企てる事になるのでしょう。 
 まあ、こんなデタラメ葉書に電話を掛けて来るような相手は、すぐにでも、騙しやすいと、詐欺の連中は思いますよね。
 要するに、こいつはカモだ! と、満足そうな笑みを浮かべるのでしょう。
 これは、弱ったなあ、と思いました。
 電話でのオレオレ詐欺は、今後も、間違いなく続く事だろう。
 また更に、巧妙に、バージョンアップして、今回のような葉書での騙し作戦など、様々な変形が登場する事は、十分に考えられる。
 となると、私が亡くなった後、老妻一人では、その複雑な騙しに、とても対応出来ないだろう。
 騙されて、この豪華な大邸宅を取られてしまうかも知れない。 
 ずっと、今までは、私が先に死んで、老妻に喪主をしてもらえば、万事、満足と考えていたのですが、どうも、それは、まずいようです。
 ところで、今までは、電話でのオレオレ詐欺は、私の家には来た事がありません。
 今回の葉書が初めてです。
 と言う事で、今まで、最後の人生計画に、このような詐欺事件については、全く考慮に入れて無かったのです。
 これは、対策を考えねばなりません。
 長考の結果、老妻を守るには、私が長生きするしか無いと、思いました。
 私の父は、95歳まで生きましたので、まあ、努力すれば、私も、その位までは生きられるのでは無いかと思います。
 何しろ、古稀の今でも、バリバリの現役ですから、体力は保証付きです。
 あとは、長生きするぞ、と言う気持ちになれば、老妻より長生き出来るかも知れません。
 とは言え、老妻の母も、97歳まで、とても元気に生きましたので、どちらが長生きするか、これは、なかなか判断が難しい所です。
 まあ、ともかく、理想形としては、私の方が何とか長生きして、老妻を見送るのが、最善です。
 それで、その後ですが、美脚で、ピチピチの若いギャルを後妻にもらって、その女性に、私は喪主を頼みたいと思ってます。
 今は、後妻業が盛んだから、いくらでも、いい女が来ると思ってます。
 私の大邸宅と預金通帳を見れば、どんな女も、すぐにウンと言う事でしょう。
 ともかく、そうすれば、老妻は、騙される事も無く、幸せな生涯を終える事が出来ると思います。
 老妻の野辺送りは、大変な悲しみですが、でも、この選択の方が、安心です。
 それにしても、人生、死ぬまで、なかなか、悩みは尽きないもの、と改めて思いました。
<上州無線さん、そんな高齢で、若い女をもらってどうするんですか?>
<えっ、そうだなあ。まずは、床の間に飾ります。後は、毎日、抱っこして散歩します>


俳句


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