上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

時代の産物

 もう大分前だが、中学時代の恩師宅に伺った事があった。
 玄関で、声を掛け、待っていると、すぐに懐かしい恩師が姿を現した。
 至近距離で立ち、私の方を見ては居るが、何か妙な素振りだ。
 何だろう? 不審に思っていると、声がした。
「どちら様でございましょうか?」 
 これは、どうも、私自身が見えないらしい。恩師は目を悪くされたようだ、と気付いた。
「〇〇です、中学の時、お世話になりました」 (〇〇は私)
「おお、そうかね、それはそれは」
「あの、目が不自由になられましたか」
「うん、加齢黄斑変性と言ってね、網膜の病気らしいが、現代の医学では、治療不可なんだそうだ」
 恩師は国語の教師だったから、目が見えなければ、字は読めない。
 と言う事は、それまでの膨大な国語的知識の蓄積が全て消失した事と、同じ事である。
 それは、有能なボクサーが両手を失った事に匹敵する。
 目を失った我が恩師は、数年前に亡くなった。
 晩年の生活が、如何に苦しいものであったかは、容易に想像出来る。
 何しろ、本好きの人が、一冊の本も読めなかったのだから。
 ところで、私も古稀になったので、最近、目の事が少し心配になり、幾つかの文献を漁ってみた。
 すると、加齢黄斑変性も、初期又は中期程度であれば、治療が可能である、との本を見つけた。
 著者は、深作秀春=眼科外科医である。横浜辺りに病院を開設しているらしい。
 もし、もう少し早く、10年位前に、この手術が開発されていれば、恩師も、不自由なく、安穏な晩年を過ごせた筈である。
 と言う事は、人間、その生まれた時代の中で、自らの人生を送るしか無いと言う事である。
 人間は、大きな運命の中で、生きて行くしか無い、と言う事だ。
 例えば、江戸時代、盲腸炎に罹ったとする。
 今なら、盲腸炎で死ぬ人は、余程の事が無い限り、居ないと思う。その手術も、ごく簡単な例として挙げられるほどだ。
 ところが、江戸時代であれば、致命的な病気である。
 麻酔も無いから、開腹出来ない。やがて腹膜炎を併発し、感染症で死んでしまう。
 江戸時代に生まれた人は、それが、その人の運命だった。
 ところが今は、盲腸どころでなく、脳腫瘍などですら、鼻から侵入して、脳に達し、簡単に腫瘍を摘出し、治してしまう。
 暫く前だったら、電動ノコギリで頭蓋骨を切断、開頭手術をして、やっと処置したものである。
 人の寿命は、その生まれた時代に、左右されるという事である。要するに、それが運命と言うものなのだろう。
 さて、最近、報道に依れば、あの梅毒が、流行りだしたらしい。
 もう、過去の病気だと思って居たのだが。
 少し前までは、もう医師ですら、日本では、本物の患者に接する事は珍しいと言われていた筈である。
 どうも、外国の観光客が、日本の風俗を利用して、そこから、急速に広まったという話がある。これは推測である。
 梅毒は、ご承知のように、新世界からヨーロッパにもたらされて、瞬く間に、世界中に広まった病気だ。
 長い間、不治の病であり、このため、多くの人が、廃人となり、亡くなった。 
 しかし、1929年にペニシリンが発見されてから、梅毒は治る病気になった。
 梅毒の発見は、1492年以来だから、1929年までの治癒確立まで、約450年間、強烈な猛威を振るった訳で、当然、その罹患者は、膨大な数に上った事だろう。
 中世の芸術家、政治家、王族、哲学者、富裕層は、殆どが梅毒に罹ったのではないでしょうか。
 音楽で有名なモーツァルトも、そうです。
 わずか35歳で亡くなって居ますが、その放蕩生活で梅毒に感染したのでしょう。
 70歳まで位、生きれば、もっと素晴らしい音楽を沢山、作っていたと思われます。
 実に、勿体ない事でした。
 でも、音楽家は、大体、すごい女好きですから、これは必然の運命とも言えます。
 その他、哲学者のニーチェ、詩人のモーパッサン、シューマン、ローマ教皇、ヘンリー8世、シューベルト、シューマン、ボードレールなど。
 ニーチェは、晩年、神経梅毒で廃人同様だったと言われます。この人の著作は、誤訳が多い事が、近年、分かって来ました。
 その難解なのは、誤訳もさることながら、どうも、最初から、訳の分からない事を書いていたのではないかとすら、疑いたくなりますね。
 勿論、日本人も沢山居ます。
 結城秀康、徳川家康の次男、最後は、ゴム腫で、顔が凄まじい様子になっていたようです。
 芥川龍之介も、自殺しましたが、神経梅毒の故と言われています。
 上げたら、キリがありませんので、止めます。
 梅毒の蔓延は、富裕層だけでなく、庶民階級も同じだったと思われます。
 江戸川柳にも、梅毒を読み込んだものが、沢山、あります。
 もし、梅毒の治療法が、早期に開発されていたら、世界史は、確実に、大きく変わっていた事は、間違いないと思います。
 まあ、今は、治るとは言っても、性病は、ご免ですね。
 梅毒は、ゴムを使用した位では、防ぎきれませんので、これはと思ったら、風俗街に行かない方が良いと思います。
 だから、不倫相手の選択には、十分、気をつけた方が良いですよ。
 楽しい不倫の最後が、梅毒治療では、余りにも悲しい結末ですから。
 それにしても、世界中の梅毒蔓延を考えると、男と女の性欲の凄まじさを、しみじみと感じます。
 他の病気で、あの早さ、あの規模で、世界中に蔓延したものは、見当たりませんね。
<上州無線さんは、梅毒は大丈夫なんですか?> 
<うん、若い時から、しっかり禁欲して、余り女性とは付き合わなかったからね。それで、感染する機会が無かったんだよ>
  


俳句


哲学者 それでも行くよ 色町へ