上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

喪服の女

 少し前だが、ある葬儀に行った。
 駐車場に車を置いて、受付に行くと、既に、かなりの混雑であった。
 この分だと、きっと、知ってる顔に出会うと思った。それで、なるべく下を見ながら、二階の葬儀会場まで行った。
 まだ、前の方に、席は少し空いていたが、余り目立ちたくも無いので、私は後ろで立つ事にした。
 正面を見ると、如何にも華やかな祭壇である。
 私も、何時か、いずれは、あの菊の花に囲まれる事になる。
 いや、私の葬儀は、シンプルでいい。何も飾らなくていい。墓さえも作る気は無いのだから。
 勿論、坊さんも呼ばなくていい。金を取られるだけだから。戒名なんて不要。
 その分、老妻に金を残した方が、老妻も喜ぶだろう。その金で、老妻は、宝くじを両手に持てないほど買えばいいのだ。
 さて、葬儀はなかなか始まらない。何にせよ、待つ時間は長いものだ。 
 すると、立っている私の隣に、若い女が、そっと近づいて来た。彼女も、私と同じように、後ろで立つ事にしたらしい。
 まだ若い女だ。20代の後半位か。故人と、どんな関係があったのだろうか。
 横顔が、すごく綺麗な女である。黒の服が、よく似合っている。
 気付かれぬように、そっと、隣に立っている彼女を悉に観察した。
 頬は抜けるような白である。それは黒服を着ているからでは無いだろう。
 うすい赤の唇が、絵画の女のように見えた。
 隣の男は、こうなると、もう駄目だ。妄想が、自由自在に、跳梁跋扈し始めた。
 いやはや、葬儀会場だと言うのに、男とは、実に滑稽な存在ですね。
 いいえ、男は、24時間、いつも男だから、仕方ないです。 
 こんな女とラブホテルに行ったら、どんなに幸せな事か。  
 ベッドで乱れる彼女の姿態を想像した。まだ、若いから、もしかして独身かな。
 だったら、帰りに声を掛けてみよう。
 爪は綺麗に装飾されている。高価な首飾りも輝いている。
 小さいが、かなり高価そうなバッグを持っている。  
 待てよ、もしかしたら、この女、あの業界の女かも知れない。 
 改めて見ると、葬儀場には不向きと思われるほどのミニスカートであった。
 こんな葬儀の場面で、ミニスカートって、どんな意味があるのか。
 いや、意味は十分過ぎるほど、あるさ。
 現に、隣の男は、先ほどから、興奮して、妄想を掻き立てているじゃないか。
 もしかして、この女は、故人が好きだった女かな。
 うーん、そうかも。それで、後ろの方で目立たないように参列しているのだ。
 お焼香が始まると、私は、彼女のすぐ後に、離れないように続いた。
 葬儀場を出たら、何時か、話しかけようと思ったのだ。
「故人とは、どんな、お知り合いですか」と聞けば、ごく自然な流れだろう。
 さて、お焼香を済ませて、いざ、後ろに付いて歩くと、細身の割には、くびれが深く、尻のでかい女だった。
 いや、私は、くびれのある女は好きだから、それは、歓迎する所だ。
 これも縁かも知れない。故人の女を葬儀の日に、受け継ぐとは。
 でも、人が大勢居る所では話しかけられない。
 人混みが無くなる駐車場に行ったら、話しかけてみよう。 
 正面出口から、彼女は、広い駐車場を軽快に歩いて行く。私の事など、全く気付いていないようだ。
 きっと、気の強い、明るい女に違いない。そんな女が大好きだ。
 私の勝手な空想、いや、妄想は止まる所を知らなかった。
 駐車場の端に黒の車。どうやら、あれらしい。
 それでは、いよいよだ。すぐ近くに行かなくては。私は足を速めた。
 彼女が車の側に行くと、ドアがすぐに開き、中から、サングラスを掛けた、中年男が出て来た。うーん、あれは風俗関係の男だろう。
 その丁寧な動作から推察すれば、恐らく、彼女の紐とか、恋人ではなさそうだ。
 彼女自身の車で来たと思っていたが、大外れだった。これでは、話しかける事は出来ない。
 私の足は止まり、暫く、黒の車を眺めていた。
 やがて、ゆっくり動き出した車は、すぐに走り去り、見えなくなった。
 故人は、比較的、真面目な男だったが、それでも男は男。それなりに遊んでいたのだろう。
 でも、最後に、あんな素敵な女が、葬儀に来てくれたのだから、大いに満足して、あの世に旅立った事だろう。 
 それにしてもだ、死ぬ前に、友情の印として、あの女を私に紹介してくれても良かったのに。 



俳句


ふと見れば 喪服の女 白き頬