上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

若い女性<19> ミラーボール

 青井は日本人だが、大きな体と浅黒い、いや、もっと黒い肌をしていた。
 だから、進駐軍の黒人兵の子どもと言っても、大抵の人は信じた事だろう。
 私は普通の肌色だが、青井と一緒に撮った写真を見ると、真っ白な顔をしているように見えた。
 その黒い肌のせいかどうか、知らないが、青井も、また黒人特有のリズム感を持っていた。
 それは、青井とダンスホールに行って、初めて知った。青井とダンスホールに行ったのは、大学三年の頃だった。
 新しいダンスホール、フロリダが出来たから、行こうと言う。
 ダンスは一度もした事が無かった。でも、女が居ると言うから、無線の工作を中断して行く事にした。
 大学生の頃は、もう、女が一番優先的な存在だった。性欲の絶頂期であるから、どうにも仕方ない。
 入り口で、青井は、受付の女の子に軽く会釈した。
「ちょっと、入るからね」
 そう言って、さっさっと中に入ってしまった。迷ったが、私も続いて黙って入ってしまった。顔パスは、青井の人脈の広さを示していた。
 中は、若い子でいっぱい。女の方が多かった。暗い室内には、ミラーボールが、ゆっくりと回っていた。
「どうやって、踊るんだ?」
「なあに、適当にやりゃ、いいんだよ、ダンスなんか」
 暫く観察した。ブルースなら、何とか出来そうだ。女の子は沢山居たから、すぐに相手が見つかった。
 踊り方をよく知らないというと、その子は丁寧にステップを教えてくれた。すぐにブルースは出来るようになった。でも、初めてだから、かなり興奮してしまい、女に体を寄せる事が出来なかった。
 あの頃は、ほんの僅かな事でも、ものすごく興奮したものだ。今にして思えば、実に羨ましい時代であった。体全体がパワーの塊だったのだ。  
 しかし、男がリード出来ないと、女はつまらないから、すぐに、女は他の人のところに行ってしまった。まあ、少しでも教えてくれたから、感謝だ。 
 壁により掛かって、青井を探すと、端の方にいた。あちこち見ている。相手を探しているらしい。
 その内、壁に立っていた女を強引に引きずり出した。なかなかいい女だ。脚が綺麗だ。
 それから、女の両手を掴むと、そのまま女の背中に回して、あとは、女をぴったり、抱きしめてしまった。
 あんなダンスの組み方も、あるのかと感心した。(そんな組み方は無かった)
 なかなか刺激的で、男なら、やって見たい組み方だ。でも、女は体を左右に揺すって、何か拒否の意思を表している。
 青井は、女の拒否にも全く構わず、そのまま、ホールの真ん中の方に、少しずつ引っ張って行った。青井と女は見えなくなった。
 私も、やっと、2番目の子を見つけた。何とか踊れたが、何かが欠けた。
 ダンスは踊れるだけでは駄目で、雰囲気が伴わなければ、駄目らしい。
 だから、その子とも、すぐに終わってしまった。
 青井の方を見たら、女が青井の胸に顔を埋めている。二人は、ゆっくりと動いていたが、ちゃんと曲に乗っていた。曲が変わると、青井は微妙に動きを変えて、見事にリズムを掴んでいる。
 女の様子は、初めとは、全然、違った。とにかく、女が、すごく満足してるのは、よく分かった。
 若い女は、実に、不可解で気まぐれ動物だ。気分もすぐに変わるらしい。きっと、理路整然とした考えなど無いに違いない。
 よし、少し此処に通って、練習しよう。そうすれば、踊る時の雰囲気も分かるだろう。
 三人目の女の子は、なかなか見つからなかった。意気消沈だ。もう誘う勇気も無くなってしまった。
 青井の方を見ると、青井の大きな体の中に、抱きしめられた女の体が小さく見えた。
 踊れないから、薄暗いホールの中を観察する事にした。
 見ると、殆どが、20代である。こんなに居るんだから、一人位、モノにならないかなと思った。しかし、溜息ばかりで、行動は出来なかった。
 暫くして、また青井の方を見たが、姿が見えなかった。何処に行ったのか。
 それから、ホール内を少し歩き回って探したが、青井の姿は、何処にも見当たらなかった。
 これは、トンズラしたのだ。
 二人で遊びに行くと、青井が、時々、トンズラした。突然、姿を消してしまう。
 これは気に入った女を捕まえたのだ。そうすると、私の事など、どうでもよくなる。
 これは、毎回の事だから、腹も立たない。男なら、掴まえた女の方が大事だ。
 それより、ダンスを上手くなりたいと思った。



俳句


切なきは ダンスホールの 壁の花