上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

若い女性<18> 白い悲しみ

 この所、また介護関係の事件が報じられている。体に痣があって死んで居るのだから、普通の事故には思えない。
 でも、施設内の事で、目撃者はいないから、どの事件もはっきりしない。
 私も古稀世代だから、いずれ、健康を損なえば、老人施設に入る可能性はある。
 そう思うと、どの事件も他人事とは思えなくなる。
 父は91歳で、施設に入り、95歳の時、そこで亡くなった。特に、介護を必要とする状態では無かった。まあ、4年間、特に問題はなかったから、良い方の施設だったと思う。
 その施設の責任者は、まだ20代後半位の若い女だった。
 施設を訪れる度に、色々と話をしたが、毎回、マスクをしていた。
 夏の暑い時ですら、マスクをしているのである。 
 ミニから出る白い脚は、なかなか格好良くて、顔も、マスクではっきりしないが、悪くはないように見えた
 年末の頃、訪れて彼女と話をしていると、マスクが何か具合が悪かったのか、話ながら片手で調整していた。そしたら、突然、マスクがポロリと外れて、ぶら下がった。
 見えたのは、上唇の大きな傷跡。三ツ口の手術跡だった。
 今は、かなり進歩して余り大きな手術後は残らない筈だが、それでも、症状によっては、そうも行かない場合もあるのだろう。
 それで彼女は、一年中、マスクをしていたのである。
 事務室の職員は、殆ど既婚者だったが、彼女は独身であった。
 日常の態度を見ていると、彼女は明らかに、三ツ口に劣等感を持ち、それに押し潰されていた。陰気ではないが、快活とは言えなかった。
 此処から、私は、止せば良い事をしたのである。
 それならば、彼女を元気づけてやりたい。彼女を食事に誘って、その三ツ口なんか、何でも無いんだと激励しよう。
 親切心があったのは間違いないが、下心もあったんでしょう。男ですから。
 暫くして、父の事務的な事で彼女と話す機会が訪れた。話が一段落した後、思い切って言った。
「ねえ、美味しい焼き肉でも、一緒に食べに行きませんか」  
 私の言葉を聞いて、驚いたらしく、一寸、沈黙していた。
「いえ、いいです」 
「ああ、駄目ですか。それは残念ですね」
 私の意図は、忽ち、脆くも崩れ去った。
 これほど、手応えの無かった口説きは、初めてだった。今まで、どんな女だって、何かしらの反応は、あったものだ。
 これは波長が合わないのだと、すぐに見切りを付けた。
 きっと、下心があったから、神様が罰をお下しになったのでしょう。
 その後、何かの折りに、友人と飲んでいる時、その話をすると、彼は、如何にも訳知り顔に言った。
「よくある例だけど、パトロンがいたんだよ、その女。金持ちの病院経営者が、若い女を施設の管理者にするんだ。どうせ、その男は、他にも介護施設を経営してると思うよ」
 或いは、そうかも知れない。確かに、あの大きな施設の管理者にしては、年齢が少し若すぎた。
 でも、彼女とすれば、三ツ口の自分だから、愛人でも何でも、それが一番良い人生だと思ったのだろう。
 今でも、彼女は白いマスクをして居るのだろうか。




俳句


悲しみを 覆い隠すか 白マスク