上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

赤と白

 今朝は朝雨で、カーテンを開けると、ベランダに雨滴が飛び散ってました。
 雨を眺めていたら、妙ですが、遠い雪の日を思い出しました。
 人間の記憶って面白いですね。
 あれは、もうずっと昔、私が30代になった頃でした。
 その日、前橋としては、かなりの大雪が降ったのです。30センチ位。
 丁度、入試説明会で出張の日。ところが、目的地近くまで行くと、もう車が渋滞で動きません。
 仕方ないので、空き地に車を放置して、歩く事にしました。大雪には慣れて居ないので、歩くのが大変。
 因みに、前橋市では、普通、ひと冬に雪を見るのは、多くても三度。積もる事は無いです。うんと昔なら、少しは積もったのですが。
 まだ早朝でしたので、歩道の雪は処女雪です。加えて革靴ですから、雪の中に埋まってしまい、なかなか進まなかったです。
 前を見たら、向こうから、人が近づいて来ました。若い女の人です。いよいよ、近づいて、私の方が歩道の端の方に避けました。
 ふと見たら、彼女も私を見ていました。
 綺麗な女でした。私が30代の初め、彼女は私よりも少し上と思いました。
 その服装から水商売の女だと、すぐに分かりました。でも、とても上品な感じがしました。白い雪と濃い赤のミニスカートが、絶妙のコンビネーションでした。
 すると、彼女が、ちょっと笑顔を浮かべて、会釈したのです。私は、見知らぬ女で、しかも、水商売だなと思いましたから、警戒心もあって、黙って見つめたままです。
 近づきながら、不思議に私達は目を離す事は無かったです。ずっと、見つめ合っていたんです。あれはどう言う事だったのか、不思議な瞬間でした。
 至近距離に来た時、また、その女性が、今度は、はっきりと体全体で挨拶しました。
 顔を傾けて、私を見つめました。何か話しかけてくるかな、と思いました。
 あの時の、人懐っこい表情は、今でも、忘れていません。
 あの時、私が、一言、何でもいいから、言えば、物語は始まった筈です。
 でも、私はまだ、30代に入ったばかりの青年。
 女性に性愛があるなんて、信じていなかった頃です。女性からの接近を理解出来ないかったのです。まだ、女性の性欲とかも分からなかった。無いと思ってた。
 表情を変えず、ほんの少しだけ、会釈を返し、私は通り過ぎました。
 お互い、見つめてから、過ぎ去るまでの、何と長い時間だった事か。
 それは、私も、無意識にその女性に強く惹かれていたからでしょう。
 街中で、他人同士が、永く見つめ合うなんて、無いですから。この時だけです。
 はい、お終いです。
 なあんだ、それだけですか。
 でも、後で、色々、考えました。
 あの時、しっかり返事して、仲良くなれば、彼女だって嬉しいし、勿論、私はもっと嬉しい。しっかり抱けたのに。なのに、どうして行動しなかったのか。
いや、水商売の彼女は、カモになりそうな人が来たから、色目を使ったんだ。掴まらなくて正解だったんだ。
 いや、いや、もし、そうだったとしても、私はカモになるべきでした。
 短い人生、いいじゃ無いですか。好きだと思った女に騙されるのなら。
 人生で、好きな人と巡り会えるのは、本当に、稀な事なんですから。
 もし、45歳位の時なら、この大雪の日、私は、間違いなく、この女性に話しかけて、とても仲良しになっていたと思います。   
 近くに日用品店がありましたから、そこへ女性は来たんだと思います。だから、アパートは近くかも。そのアパートへ一緒に行けた筈。(妄想だ!)
 あの頃は、まだ、女性が分からず、何か怖くて、すぐ積極的に動けなかった。
 ああ、惜しかった。大雪の日に、素敵な女性を抱けたのに。
 今でも、雪が降れば、勿論、あの女性を思い出します。
 朝雨でも思い出すんですから。

 


俳句


大雪や 微笑み浮かべる 女あり