上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

若い女性<16> 不可解群2

 私が見た女は、青井が連れてきた、ごく一部です。
 ずっと長く青井と居れば、もっと、色々な女のことを知ったと思うが、青井は若くして自殺してしまったので、全部は分からない。
 私が会った女についてだけ、記すことする。
 ある時、青井の離れで雑談をしていた。部屋の壁には、彼が書いた幾つかの裸体画が掛けられていた。なかなかの腕前だ。有名画家の名前を添えたら、間違いなく売れると思った。
 青井が一枚の絵を指差した。
「この女のことで、俺、褒められちゃったんだ」
「誰に?」
「鵜川産婦人科の医者んぼだよ」 
「産婦人科に褒められた? 何だそれ」
「君は、毎回、付き添って来るから偉いってさ。この間、三回目の時、言われたんだ」
「女に付き添う男は偉いのか?」
「そうらしい。大抵の男は逃げちまって、女が一人で荷物持って、来るのが殆どだとさ」
「だけど、そんなに堕ろして大丈夫なのか? 産めなくなっちまうんじゃないか」
「ちゃんと避妊しねえからさ、あいつは」
 青井自身は避妊したことが無いと言う。
 青井も悪いが、相手の女、関川は一歳下の大学二年生だが、何考えているのか。 なかなかの美人で背も高く、経済学部の学生だった。何度か、話したことがあったが、頭の回転は良かった。
 それが、三度も。私は、関川の顔を思い浮かべて、不可解の塊になった。
 青井は嘘を言ってはいない。また嘘を言う必要も無い。
 堕胎について、青井はすごく詳しかった。女からの耳学問に違いない。
「通常はね、堕胎手術は日帰りで済むんだ。ただ、手術の前、数日間、事前処置があるから、女は、ちょっと苦痛らしいな。若い女は子宮口を広げる処置をするんだ。
 実際の手術は、そのまま胎児を引き出す訳ではない。ジグソーパズルさ。更に、筋肉弛緩剤を使用し、膣口に八時切開も加える。手術後だけど、あそこの回復力はすごいよ。一ヶ月もすれば、傷跡は全然見えなくなっちまう」
 当時は、聞いても、私は意味がよく取れなかった。
 それにしても、一人の女に三回。知り合った女の数と三回を掛けたら、何回になるのか。中には、きちんと避妊する女もいたと思うが。
 若い女は自分の体が傷んでいくのを何と思っているか。
 後日、何かの折り、関川に会ったことがある。その時、よほど、聞いて見たかったが、「貴方、青井の悪口を言って、あたしを口説いているのね」と思われては馬鹿らしいと思ったから、とうとう聞けなかった。
 ずっと後の話だが、関川は青井と別れた後、大手の銀行に就職して、最後は部長にまでなった。だから決して、馬鹿な女ではなかった。
 それなのに、三回も堕ろすとは。
 学生の私には、どうしても分からなかった。
 さて、次の話に移る。
 道路の工事現場で旗振りをしていた女がいた。その女は私と同級だったが、学部は違った。
 その工事現場を、偶然、青井が通りかかった。青井は停車車両の先頭で車を停めた。旗振りの女は、窓のすぐ側に居た。長い停止時間だったらしい。
 青井は窓を開けると、何と、その女を口説いたのだ。  
 こんな状況下でも、青井は女に話しかけてしまうのだ。普通は、到底、考えられないことである。
「見たらさ、ロンパリなんだ。おまけにブス。これはすぐ落ちると思ったぜ」
 青井に依れば、モテない女ほど、男の優しい心を待っていると言う。
 他にも、二人連れの女は口説きやすい。まず、ブス女に声を掛けて、最終的には、いい女の方が引っかかって来る。また、プライドが高く、気の強い女は、金目のものに弱く、引っかけやすい、とも言った。
 女をじっと見つめて、女が何かのアクションを起こしたら、成功の確率が高い。例えば、髪を撫でたり、服装を整える仕草だと言う。
 それと基本は、女について、とにかく、何でも褒めることだと言った。 
 残念ながら、私は、これらを実践したことは無い。
 そもそも、若い女性に、進んで声を掛けられなかったからだ。
 それで、旗振りの女は滝本と言ったが、確かに、どんな男も声を掛けるような顔では無かった。
 私が、初めて滝本と会った時、ロンパリなので、彼女が何処を見てるのか、見当が付かなかった。それで私自身も、何処を見たら良いのか、分からなくなってしまった。
 余り話したことが無いから、彼女の性格は、どうだったか等は分からない。  
 ただ、ベッドでは、なかなかの女らしかった。青井は、その詳細を何度か話してくれた。
「予想外に、いいのを持ってたよ」
 一年位で別れたようだ。最後に、青井が言った。
「今までさ、一度も目が合ったことが無かったんだ。けど、最後に別れる時、あいつが怒って、ぐっと俺を睨んだんだ。そしたら、その時、初めて二人の目が合ったんだ」
 そう言うと、青井は、いきなり仰け反って、倒れそうになりながら大笑いをした。
 私は滝本がちょっと可哀想になった。でも、男女の仲だから、仕方ない。私が、とやかく、言うことではない。
 青井の風貌を今まで書いてなかった。
 端的に言えば、エルビス・プレスリーの日本版と言えば、簡明かつ正解だろう。日本人にしては、かなりの色黒。体格は大柄で182センチ。ただし、歌ったのを見たことは一度もない。酒は飲まない。煙草は普通程度。
 そういえば、死んだ歳も、もしかしたら、プレスリーと同じ位かも知れない。プレスリーは42歳で心臓麻痺で死んだが、青井もその位だったと思う。死因は自殺。
 それにしても、コロコロと引っかかる若い女の思考回路は、どうなっているのか。


 


 俳句


野分過ぎ 青空に雲 速きこと