上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

手術台


 40歳の頃だったか、左の背中に脂肪が貯まったらしく、盛り上がってきた。 
 触ると、柔らかかったから、癌では無いと思った。でも、放置しておいたら、少しずつ大きくなって来た。一寸、まずいと言う事で、近くの病院に行った。  
 背中を見た医者は、局部麻酔をして摘出すると言った。手術時間は30分位だと言う。
 手術台に俯せになると、まず麻酔注射を打った。
「途中、痛かったら、言って下さい。追加しますから」
 なかなか親切そうな医者だった。40歳位の男の医師である。
 やがて、電気メスで切り始めた。すると、焼き肉の匂いがしたのを覚えている。。
 ともかく、30分我慢だ。そう思い、腕時計を確認して、決意を固めた。
 ところが、30分過ぎても終わりそうに見えなかった。焦ってきた。私は低血圧の傾向があるせいか、何か、頭がふらふらしてきた。我慢の限界か。
 でも、手術の途中だ。まさか此処で、止めます、と言う訳には行かない。
 血圧を上げれば何とかなるかもしれない。そう閃いた。
 事は緊急である。それで、側に居る看護婦の脚と尻を見つめた。今まで気付かなかったが、見れば、なかなかの美尻である。実に運が良かった。
 その美尻に激しく妄想を重ねていると、予想通り、少しだけ気分が回復して来た。
 この方法は行けると、確信した。それで、意を決して看護婦さんに言った。
「あの気分が悪いので、手を握らせて下さい」
「はい、どうぞ。もう少しですからね、頑張って下さいね」
 若い看護婦は、気の弱い患者を元気づけてやろうと思ったのか、いとも簡単に応じてくれた。
 やはり、実物と妄想は全然違った。私の血圧は忽ち、急上昇を始めた。不快な気分は消え去って、いくらでも我慢出来るぞ、と言う充実した気持ちになった。
 気付けば、何と息子までも元気になっている。こうなると、もう余裕だった。
 さて、手術の方だが、浅いと思ったのが、意外と深かったらしい。
「かなり根が深いみたいなので、もう少し時間が掛かりますね」
「いえ、全く平気です、大丈夫です」
 途中、痛くなって来たので、麻酔を二度、追加した。結局、二時間半位掛かって、漸く終わった。
 話は飛ぶが、退職して数年後、大腸内視鏡の時も、この作戦で行った。
「あの、ちょっと手を握らせてもらえますか。そうすると、気分が楽になるんです」
 別に気分は少しも悪くなかった。ただ、もう、手を握りたいだけである。
 若い看護婦は、笑顔で、あっさりと応じてくれた。
 看護婦さんの様子から推測すると、手を握る患者は、そう珍しい事ではなさそうだ。 だから、平然と応じるのだろう。
 因みに、大腸内視鏡は、痛くも痒くも無いが、やはり気持ちの良いものでは無い。
 それで、背中の手術だが、10日後位に抜糸。ほっとした。
 帰宅して夕食後、テレビを見てたら、背中の傷跡が少し痒い。手で軽く掻いたら、途端に、指二本がズブリと切開創に吸い込まれた。傷口が開いてしまったのだ。
 12センチほど切開したのだが、抜糸が早過ぎたのである。
 どうも、人柄は良さそうな医者だったが、余り腕前は良くなかったらしい。
 古稀だから、いずれ何時か、また手術する日が来る。でも、美人の看護婦さんの手を握れるなら、どんな手術にも耐えられそうだ。
 
    
俳句

雨降りて 窓の向こうに 遠き日々



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