上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

高い高い


 桃ノ木川の橋を渡ると、その直ぐ先が、県立健康科学大学のキャンパスである。
 深い木々に囲まれた駐車場には、今日も多くの学生の車が見えた。
 前橋の電気屋さんに行き、自宅に戻る時、いつも、この大学の前を通る。
 時には、木々の間から、キャンパスを歩く学生の姿が見える事もあるが、大抵は、人影は見えず、静まりかえっている事が多い。医療系の大学だから、実習に忙しいのだろうか。
 数年前、この大学の文化祭に、老妻がフリーマーケットを開くというので、手伝うために、この大学を訪れた。とても雰囲気の良い大学であった。老妻がマーケットを片付ける時、男女学生達が進んで手伝ってくれたと言う。
 そんなこともあって、翌年から、私は、その文化祭に行くようになった。 
 小さな地方の大学であるから、そんな大がかりのものは無いが、展示場に行くと、どの学生も楽しそうに応対してくれた。
 久しぶりに若い人達に接して、私はとても幸せな気分になった。また、彼らを見て、自らの学生時代を思い出し、感傷と共に懐かしさに浸った。
 自分にも、あんな時代があった。親しかった友人や好きだった女の子の顔を浮かんできた。
 構内の展示を見終わると、大学の直ぐ南にある、桃ノ木川の土手に行った。大きな川で、その岸の小道は、遙か遠くまで続いていた。よく晴れた日には、この川岸の小道を学生達は、きっと散歩するに違いないと思った。
 いいなあ。また学生時代に戻りたいなあ。過ぎ去った学生時代が余りに懐かしく、思わず、涙が零れてきた。心の底から何かが込み上げて来た。
 いや、もう過ぎ去ってしまった事だ。後悔するのは止めよう。自分にだって、細やかだけれども、学生時代の思い出はあったではないか。
 感傷に浸る自分を叱咤して、私は、また野外ステージの所に戻った。学生バンドが大きな音を立てて演奏していた。
 私のすぐ前で、赤ん坊を抱き上げて、高い高いをしている女性がいた。その周りには幾人かの女子学生が立っている。恐らく、誰か学生のお姉さんが赤ん坊を連れて文化祭を見に来たのだろう。
 周りの女子学生達も、赤ん坊が、きゃっきゃっと大声を上げる度に、笑っている。
 実に、いい風景だなと思って、私は、すぐ後ろで、その様子を黙って見ていた。 
 不意に、赤ん坊の周りに居た、ある女子学生の後ろに、男子学生が近づいた。近づいたかと思うと、その女子学生の後ろに、ぴたりとくっ付いた。
 おやっ、何だ、この男は。次の瞬間、男は女子学生の両脇に手を差し込み、その女子学生を思いきり、高く持ち上げた。
 女子学生は、突然の事だから、当然、キャーッと叫んだ。すると、男子学生が、高い高いと叫んだらしい。小さな声なので、私には、よくは聞こえなかった。でも、それで女子学生は、男が誰だか、分かったのだろう。今度は安心して、今度は大声で笑い出した。
 全ては一瞬のうちに終わっていた。
 後ろから不意に、抱き上げた男子学生は、その女子学生と、きっと仲の良い男だったに違いない。そうでなければ、あんな真似は出来ない筈だ。
 そっと下ろすと、女子学生が振り向かない内に、男子学生は、さっと逃げてしまいました。逃げて行く男子学生を女の子は笑顔で追っていました。
 前橋の街へ行った帰りなどは、この大学の前を通ることになります。すると、決まって、あの二人を思い出します。

      
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若き恋 ガラスのように 儚きや


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