上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

若い女性<15> 不可解群


 学生時代によく一緒に遊んだ友人で、仮に青井としておくが、ひどく女性にもてた男がいた。高校を中退して、何か訳の分からぬ仕事をして生活していた。家業は老舗の煙草屋だったから、その手伝いも少しはしていたようだ。
 私は、アマ無線の製作に少し飽きると、青井の所によく遊びに行った。母屋から20メートル位の所に離れの部屋があって、そこで青井は寝起きしていた。
 ある日、大学のプールの帰りに、ふらっと青井の離れに寄った。 
「川嶋、今夜モデルが来るから、一緒に絵を描いてみないか」 
 聞けば、若いヌードモデルだと言う。丁度、送信機の製作が終わった所だったので、いや、単に女の裸を見たかったので(正直で宜しい)、直ぐ誘いに応じた。
 夕飯を自宅で済ますと、7時頃、青井の離れに行った。まだモデルの女は来ていなかった。
 部屋には、画材やら、絵の具、イーゼルが乱雑に置かれていた。如何にも画家の部屋のようだ。絵は高校を退学してから始めたと言う。
 30分位して、女の声がした。入って来たのは小柄の可愛い子だった。真面目そうな、全く普通の女だ。青井の相手だから、茶髪のブス女が来るのだろうと思っていたが、予想が外れた。
 この子が、ほんとに裸になるのか。すると、女は私が居るのに気づいて、一寸、驚いた素振りを見せた。私の事は言ってなかったらしい。
「俺の親友、だから、平気だよ、平気」
 青井は躊躇する女に、平気だよ、と何度も言って、女を説得した。
 やがて女は納得した。トイレの方に行き、服を脱ぎ始めた。横目で見ると、色が白く、滑らかな肩、細いウエスト。毛は薄い。途端に、胸がドキンと打ち出した。これなら、ブス女の方が良かった。
 部屋の真ん中に座らせると、目線はあっち、手は此処、足はこんな風に、と、青井は手慣れた画家のように指図した。
 一時間ほどデッサンしたが、それが限界でした。とても絵を描く気分になれなかった。 ヌードモデルを見たのは初めてだったから、それどころでは無かった。
 既に時間を持て余していた。
 すると、突然、青井が側に来て、小声で言った。
「川嶋さ、悪いけどさ、一寸だけ、30分ほど散歩して来てよ、頼む」
 例の握りしめたグーを私の前で、一寸、揺り動かした。
 私は、もう退散したいと思っていたから、渡りに船とばかり、部屋から逃げ出した。 言われて、のこのこ、馬鹿面して戻る気は毛頭、無かった。
 それ以後も、青井は相当数のヌードモデル?を連れて来ては、絵を描いていた。
 ある時、私が部屋に入ると、若い女が一人で居た事が何度もあった。私は直ぐに引き上げた。多分、青井は女を残して、煙草の配達に行っていたのだろう。
 その後も、何度か誘われたが、私は二度と行かなかった。一度、熊みたいに毛深い女が来るから、見に来いよ、言われた事がある。
 臍から下が真っ黒で何も見えないという。身振りを交えながら、その様子を説明すると、最後は自分でも可笑しくなったのか、青井は大笑いをした。
 熊みたいな女でも見に行きたい気持ちはあったが、ご馳走を見せられるだけでは行きたくもない。
 ところで、青井の行動は、ごく普通の事だと思う。世の画家とモデルは、全て、こんな調子に違いない。
 男である画家が、何日も同じ女の裸を見ていれば、その気になるのは無理もない。
 また、モデルの事を好きで無ければ、絵に描きたい気持ちも起きない事だろう。
 かの有名な洋画家であった藤田嗣治とキキも、その例外では無かったようだ。
 モンパルナスのキキとして名を馳せた彼女は性的に奔放な女で、様々な芸術家達の欲求に、ほど良くマッチしていたのだろう。
 だから、歳を取り、性的魅力が衰えてしまえば、どの芸術家も、もうキキに見向きもしなくなるのは当然である。キキの晩年が不幸だったのは、容易に予測できたことである。
 描いては抱き、抱いては描いていたと言うのが、藤田に限らず、どの画家でも同様だったと思う。要するに、セックスの合間に描いていたのだ。また、それ位の狂おしい熱情を有していなければ、とても芸術は持ち上がるものではないだろう。
 芸術とは性欲の塊、その結晶と言い換えて良いと思うが、どうだろう。
 それにしても、実に不思議なのは、女が青井の言う事を実に素直に聞く事である。 股を開け、と言えば、すぐに、その通りにした。きっと、連れてきた、どの女もそうだったろう、と思う。
 青井は背も高く、なかなかの男前であったのは事実だが、高校中退できちんとした職は持っていなかった。要するに、無職で街の風来坊である。
 夜の街を青井と一緒に歩いていると、街角に用もなく立っている男達から、よく声が掛かったものだ。
「また、一箱、回してくれねえかな」
「ああ、いいよ。新しいのが入ったから、エンゼルに持って行くよ」
 夜の連中とも、かなり親しいようだった。
 そんな青井に、何故、女達は惹かれるのか。部屋に来たのは、若く、いずれも、それなりに綺麗な女ばかりだった。それも、見たところ、全く普通の女である。
 何で、女は青井みたいな男に付いて行くのか。
 その女達の思考回路は、学生の私には全く理解出来なかった。どの女も、見たところ、それほど頭の回転が悪いとは思えなかったから、一層、不可解であった。
 
 少し長くなったので、後半は、また、後で。

     
     俳句

川岸に 首を振り振り ヤブカンゾウ


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