上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

我が無線人生<4> 直撃で30回


 五年生から駅前の柔道場に通い出した。当時、ラジオ少年も多かったが、柔道少年も多かった。それは、漫画の影響であった。当時、「イガグリ君」と言う柔道漫画が大人気だった。それで多くの少年が町道場に集まったのである。
 新進気鋭の漫画家、福井英一さんの描く、新しい手法を入れた、ストーリー漫画が、日本に初めて登場したのである。戦後の大した娯楽がない時代、それまでの単なる意味のない、お笑い漫画でなく、初めて物語を描く漫画が現れたのである。
 忽ちにして、日本中の人々の心を捉えてしまった。
 しかし、惜しくも、福井英一さんは若くして亡くなってしまった。手塚治虫さんのライバルと言われた人だが、生きていたら、どんな漫画を描いただろうか。
 さて、毎日、楽しく柔道の練習をしていたが、ある日、師範代のA先生が指導してくれる事になった。指導とは自由に乱取りして、技を掛け合うのである。
 A先生は、当時、40歳位だったろうか。背は160センチ位で、子どもから見ても小さかった。しかし、肩幅はかなりあり、筋肉は盛り上がっていたから、如何にも強そうに見えた。。
 そのA先生は、日頃から、かなり乱暴だったので、少年達からは恐れられていた。 私がA先生から呼ばれると、周りの友達は、大変だね、と言う表情を見せた。
 ただ、A先生は私の家の近所に住んでいたし、私の両親とも、多少は親しかったので、私とすれば、それほど恐れては居なかった。
 さて、乱取りが始まり、私も懸命に頑張ったが、大人と子ども、いくら力を出しても敵う訳は無い。それでも、私は必死に力を出した。
 ある瞬間、背負い投げを掛けに相手の懐に入った。そこで、力を入れたが、M先生はビクともしない。大人と子どもである。それで、思い切り全力を出した。
 その途端、大きな音がして、おならが爆発してしまった。腹に力が入ったので、貯まっていたガスが大音響と共に、噴出してしまったのである。
 背負い投げであるから、真後ろで体を密着していたM先生は、最大の被害者となってしまった。おならがM先生の腹をもろに直撃したのである。
 さすがに、これはM先生にしてみると、愉快では無かったようだ。いくら相手が子どもでも、許す訳には行かなかったらしい。
 勿論、私は、待ち構えて、わざと、おならをした訳では無い。満身の力を込めたから、無意識に出てしまったのである。悪気は全くなかった。
 しかし、日頃から乱暴で有名だったM先生が相手だったから、不幸であった。
 それから、ものも言わずに、畳に立っている暇が無いほど、叩きつけられた。後で、友達が30回位だと言った。
 最後は、もう意識朦朧となった。今なら、大変な暴力事件だが、当時は何事も無かった。終わって、道場の端で休んでいると、友達が心配して集まった。
 どうしたんだ? と事の顛末を聞く友達も居たが、まさか、屁をしたから投げられた、とは、なかなか言えなかった。分からないと、答えた。
 私が大人になって、この事件を振り返ると、極めて危険な瞬間だったと思う。
 怒りにまかせて小さな子どもを投げつけているのであるから、致命的な事故が起きる事は十分に有り得たと思う。
 至近距離からの屁の直撃は滅多に無い事なので、その怒りも分からなくもないが、分別のある柔道家ならば、我慢すべきところだった。
 もし、頸椎でも痛めていたら、私は一生、寝たきりになっていたかも知れない。
 後年、市内柔道大会で私が進行していると、このM先生が毎回のようにボランティアの審判でやって来た。勿論、もう70歳を過ぎていたから、何十年前の日を覚えている筈は無かった。元々、体は小さかったが、老いて一層、小さく見えた。
 それにしても、よく耐えたものと、今さらながら、思う。
 

     俳句

乱取りは おならするのも 命がけ

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