上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

若い女性<14> 男の思考


 大学に入ると、数学研究部に入部した。隣が絵画部。隣だから、絵画部の学生とも、毎日、顔を合わせた。暫くして、ポニーテールの可愛いA子に惹かれるようになりました。
 なかなか積極的な子で、向こうから声を掛けてきました。すぐに仲良くなった。背が高く、モデルのような子だった。
 部室の前に、名前は知らない大きな木があって、よく、その木の下辺りで、話をしました。だから、毎日が楽しかった。
 大学は勉強しなくてもいいし、可愛い女の子とは毎日話が出来るから、良い場所だなと思った。
 ところが、三ヶ月位したら、その子が妙によそよそしくなった。どうしたのかなと思っていたら、工学部に好きな人が居るらしいと言う噂が耳に入って来た。
 それなら仕方ないと諦めた。まだ、それほど長い付き合いでは無かったせいか、私は余り執着しなかった。
 で、私の方は、アマ無線に熱中してたから、あんまし女の子と付き合う気持ちは無くて、ずっと独身でした。
 半年位経ってから、一寸、仲良しの子が出来ました。恋までは行かないけど、まあ、友達位ですかね。でも、一応の事は、させてくれました。だから、もう特に、女の子は欲しくなかった。あとは、講義をさぼり、送信機など製作してました。
 二年後、三年生になって、あれは、夏頃でした。私が生協に昼飯を食べに行くと、遠くにA子の姿が見えました。でも、至近距離で無いから、何もしないです。
 隅の方の席で、一人で食べて、食後にお茶をゆっくり飲んでいました。
 大勢の学生で混雑していましたから、A子がどこに居るか、見えませんでした。
 ふと、気づいたら、A子が目の前に。
「お邪魔して良いかしら」
「いいですよ、どうぞ」
 なんだろうなと思ったけど、全く分からない。手にパンの包みを持ってた。座って、下を向いていたけど、やがて、顔を上げて、彼女らしい、意志のある声で言いました。 きっと、何度も考えたんだと思います。
「ねえ、また、やり直さない?」
 えっ、何だって、うーん、迷いました。どう返答するのか。正に晴天の霹靂、突然でしたから。
 で、あの時、一応の友達女がいなければ、飢えてたでしょうから、ハイハイと、即、ご返事申し上げた事かと思います。ところが、そうでは無かった。
 それと、前の事を思い出してみると、A子の方から別れて行ったわけです。まあ、振られた事になります。それを思い出すと、非常に面白くなかった。
 目の前に、素晴らしいご馳走があり、据え膳だったのに、何と言う事でしょうか。
「いや、それは、だから、一度壊れたのは、それなりの理由があったわけだし、壊れた器を修理するのは、僕の哲学には無いです」
 まあ、何とまあ、格好イイ台詞を並べたもんです。今、思い出しても恥ずかしい位。
 いい人でしたよ、本当に。この人なら、夕食が毎日、納豆なんて事は、絶対なかったと思います。
 私の言葉を聞くと、何とも言えない悲しい表情を見せて、A子さんは立ち上がりました。今、思い出すと辛い。いい人だったのに。
 それから、一年後、A子さんは卒業しました。同年齢だけど、学年は私が一年下でした。それで、あの日以後、どう言う訳か、一度も学内で見かける事は無かったです。
 当たり前ですが、その後の人生でも、二度と逢う事はありませんでした。
 で、その後、この日の事を何度か、思い出す事がありました。
 ずっと、50歳位までは、何と馬鹿な事をしたもんだと後悔してました。
 決して嫌いな女では無いのです。それどころか、まあまあ好きなわけです。だったら、なんで付き合うと言わなかったのかと。 
 それは青年の意地ですかね。前に振られたから癪だと。
 それは分かりますが、折角の据え膳です。女の方から来たのですから、何でも、その日から、言う事を聞いた筈です。実に勿体ない事をしたものです。
 もし、嫌いだとしても、好きな振りして、付き合っても損は全く無かったのです。
 そう思い、自分の判断ミスをずっと後悔していました。実に馬鹿な青年だったと。
 しかし、還暦を過ぎた辺りから、何か少し考えが変わりました。
 いや、あれで良かったんだよ。あれで正解だった。
 以前、その人間固有の波長について書きましたが、やはり、何処か、A子とは波長が合わなくて、それで別れたんだと思いました。
 ひび割れ器の哲学は、それなりに正しいのかも知れません。付き合ってすぐに、ひびが入り、割れるような器は、やはり駄目なんだと思いますよ。
 電気製品だって、買ってすぐに、壊れた物は、それを修理しても、決まって、また後になって壊れますでしょう。いわゆる外れの製品ですね。
 純粋な青年心理で、断った事で、A子も、もしかしたら私に遊ばれるような事もなくて良かった。私も良心に背く事をしなくて良かった。そう思うようになりました。
 彼女は、卒業後、暫くして、南の大陸に移住したとの事です。風の噂に聞きました。
 
     俳句

 長き髪 キャンパス遠く 影一つ