上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

若い女性<13> 金掴み


 柔道は男子の競技と決まっていたが、40年位前から、女子もやるようになった。赴任した学校で、女子部員を募ったら、四名ほど集まった。
 女子は男子と体力は明らかに違う。腕力、敏捷さ、気迫、いずれも男の方が勝る。これは、もう生まれつきでもある。そもそも、体全体の筋肉量がまるで違う。
 さて、女子部員が出来たとなると、まずは、その練習方法が問題となる。これは柔道がお互いの体を密着する格闘技だからである。
 とは言え、遠慮して組んでいたら、男と女で練習が出来ない。この辺が悩ましい所ではあるが、特に男女の区別しないと言う事で、練習をする事にした。
 だが、半年後、A校との練習試合で,とんでもない事が起きた。
 私の学校は、もう男女間の練習に慣れていたが、A校は女子部員がいなかった。
 それで、対戦試合が終わったあと、次に自由練習となり、寝技をやった。これはいつもの流れである。
 所が、である。道場の隅の方で私の学校の女子部員が相手校の男子部員に抑え込まれたままになっているのに気づいた。しかも、縦四方固めである。
 まあ、男女区別無し練習が基本だが、さすがに寝技となると、男子部員は,それ相応の遠慮するのが、暗黙の了解であった。
 本校の男子部員は、それをよく分かっていたが、この相手校の男は,初めての経験で夢中になってしまったらしい。
 本校の女子部員の上で身動きもせず、しっかりと押さえ込んでいた。と言うか、それは、もう女子部員に抱きついていた、と言った方が正しかった。
 慌てて私が、引き離したのは言うまでもない。女の子は真っ赤な顔をしていた。男の方は夢中で放心状態であった。
 さて、話を戻す。
 翌年になり、また新しい女子部員が入ってきた。その中に、もう小学校から柔道をやって来た女の子がいた。その子はなかなか強くて、一年生の秋の女子個人戦で優勝した。二年生になっても優勝した。その子とも、よく練習した。
 さて、彼女が三年生になり、夏の大会が近づいていた。いつもの様に、私と練習をしていた。
 ところが、その子が体落としを掛けに来た。それを交わして、次の瞬間、無意識に私は手内股を掛けていたのである。
 どんなスポーツも考えてから動作を起こしていたら、もう遅い。相手の動きを見て、無意識に体が反応しなければならない。柔道も同じ。
 彼女が、もし男であれば、その体勢では手内股を掛けるのが、全くの正解で何も問題はない。
 私の手内股は見事に決まって,彼女の体は宙に浮き、一回転して畳に落ちた。
 再び、組み合った時、彼女の顔は真っ赤になっていた。珍しく、口で荒い息をして居た。まずかったかなと、大いに反省したが、もう遅かった。以後、手内股は封印した。故意ではないが、彼女にしてみれば、不愉快な事だったろう。
10年後、勤務校の校長室に居たら、事務員が、面会の人が来ています、告げに来た。
 何と、ドアをあけて入って来たのは、あの彼女だった。
 10年の時を経て、訪ねてくれた事は嬉しかった。あの時の事をそれほど不愉快には思っていなかった事の証左であった。
 彼女も柔道選手である。それは、当然の事と理解してくれていたのかも知れない。
 聞けば、幼子を連れて離婚したと言う。それで、今後の進路について、色々と相談に来たらしい。特に、仕事は持ってないと言う。
 でも、彼女の明るい表情が、私には救いであった。私なりの助言を与え、頑張るように言った。しっかりした彼女の事だから、きっと困難な人生を見事に切り開いたに違いない。

追記
 手内股というのは、相手の股に後ろから手を差し込み、そのまま持ち上げて、恰も内股のようにして投げる技である。時には、金掴みなどと露骨に呼ぶ人も居る。
 縦四方固めとは、仰向けの相手に覆い被さって押さえ込む技である。

    
    俳句

雪降りて 幼き日々を 思い出す