上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

「風」 その1

 昨日、ネットを見ていたら、端田宣彦さんの死が報じられていた。
 何と72歳、正しく私と同年である。
 それで昨夜は、よく寝付かれず、また眠れず、深夜に何度も目を覚ました。
 同じ歳の死は、勿論、心寂しきものがあるのは言うまでもない。
 死のゴールが、いよいよ自分にも迫ったと思うから、微かな不安は感じる。
 でも、死は、すべて天命だと、随分と若い時代に確信したから、死の問題は、然したる事では無かった。
 誰でも死ぬのだから仕方ない。誰でも死ぬ時は涙を流すのだから仕方ない。
 誰でも死ぬのは初めてだから、怯えるのも仕方ない。
 死は、死を認識しない。
 深夜の静寂の中、眠れぬ頭の中を、流れていたのは、あの「風」のメロディーであった。
 私の学生時代を象徴する、忘れる事の出来ない曲である。
 色んな思い出が、頭の中を駆け巡り、それが私を眠らせなかったのである。
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  「風」 
 作詞 北山修
 作曲 端田宣彦
 唄 はしだのりひことシューベルツ


 人は誰もただ一人 旅に出て
 人は誰もふるさとを 振りかえる
 ちょっぴりさみしくて 振りかえっても
 そこにはただ風が 吹いているだけ
 人は誰も人生に つまづいて
 人は誰も夢破れ 振りかえる


 プラタナスの枯葉舞う 冬の道で
 プラタナスの散る音に 振りかえる
 帰っておいでよと 振りかえっても
 そこにはただ風が 吹いているだけ
 人は誰も恋をした 切なさに
 人は誰も耐えきれず 振りかえる


 何かをもとめて 振りかえっても
 そこにはただ風が 吹いているだけ
 振りかえらずただ一人 一歩ずつ
 振りかえらず 泣かないで歩くんだ
 何かをもとめて 振りかえっても
 そこにはただ風が 吹いているだけ
 吹いているだけ 吹いているだけ
 吹いているだけ…
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 その歌詞は、どうしても、全部載せてみたい。
 まあ、このブログだから、文句を言う著作権者も居ないと思う。
 風は、1969年に発表された。
 当時の私は、大学五年生、即ち、留年生。留年の経緯は、紹介するほどの意味はないので、割愛。
 卒業に必要な単位は、あと2単位であったから、講義に出る必要は、殆ど無かった。
 それで、毎日、暇過ぎるので、好きな歴史学の講義を選んでは、聞きに行った。
 また、家政科の家庭電気一般なども受講した。お目当ては、女子学生。
 講義には、綺麗な女子学生が沢山居たし、アマチュア無線家の私は、勿論、電気に関する知識は、初歩的な講義に対して、有り余るほど、あったから、とても楽しかった。
 夕方からは、夜の街をあちこち、彷徨いた。
 いつも帰宅は、午前様近かった。
 寝静まった深夜の通りを歩くと、街灯だけが音も無く並び、私の靴音だけが響いた。
 その頃は、夜空の星の位置で、時間を、かなり正確に推定出来たものだ。
 ある夏の夜、もう10時頃だったと思うが、前橋駅前に新しく出来た喫茶店に、親しくしていた後輩を連れて、寄った。
 南米と言う、変な名前の店だった。店の正面の壁に、確か、椰子の木が大きく描かれていたと記憶している。
 入ると、店の中は余り大きくは無かった。
 金髪でミニスカートの女、20歳前後に見えた、が先客でいた。隣には、30歳位の彼氏らしき若い男が居た。
 狭かったから、私の身体が、つい、その男の椅子にぶつかった。
「おい、何とか言え」
 その男は、私を睨んで、凄味を利かせた。
 一見して、こんな男位、どうにでもなると思った。それに、一連れていた後輩は100キロを越える男だったから、もし喧嘩となれば、こんな男など、明らかに楽勝だった。
 その確たる優越性の故だと思うが、私は冷静に対処した。
「ああ、それはどうも」 
 一言だけ、会釈しながら言った。
「よし、分かった」 
 男は、大きく頷くと、満足そうに了解した。
 要するに、女の前で、とにかく、格好を付けたかったのだろう。
 奥の席に座ると、客は、私達と、あの連中しかいないと分かった。 
 若い金髪女は、顔は普通だが、ミニスカートが短すぎるのが気に入った。
 細く長い脚を通路の方にまで伸ばして、これ見よがしである。
 私が、ほんの少し頭を下げさえすれば、秘かな両足の奥が容易に見えた筈だ。
 ビールを頼んだら、店内に、風の曲が流れ出した。
 その時、初めて聞いたのでは無い。何処かで、前に聞いた事があったと思う。
 だが、この時、人は誰も唯一人と言う、冒頭の歌詞は、私の心に、深く刻まれた。
 その日も彼女と会えず、ひどい落胆の極みに落ち込んでいたからだろう。
 そうして、風は、生涯、私の忘れ得ぬ、思い出の曲となった。
 酔いが廻ってくると、時々、金髪女の脚を見つめ、こいつらが店を出たら、男を叩き潰し、女を奪って、強姦してやれ、と思った。
 冷静に対処した筈なのに、心の奥底には、本音の強い怒りが、まだ残っていたらしい。
 若くて、とにかく、抑えきれない性欲を誇示をしたい時代だったのだ。 
 何の脈絡も無い、思い出だが、もう少し綴ってみたい。  


 以下次回



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