上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

散歩道

 今日の空は、また曇り空。でも、少しは薄日が射して来たみたい。
 こんな日の散歩は、少し急ぎ足にしないと、身体が冷えてしまい、健康にも良くない。
 冷えてしまうと、散歩の途中でトイレに行きたくなる事も、ごく稀にはある。
 散歩する公園は、とても広いのに、トイレは、三カ所しか無いから、いざとなると、困ることもある。
 偶に、どっかのオジさんが立ちションをしているのを見かける。
 その人とすれば、とうとう尿意を我慢出来ず、限界に達したのだろう。
 それで、辺りに人影が見えない事を用心深く確認してから、急いで小用を済ませようと思ったに違いない。
 ところが、そんな時に限って、どう言う訳か、人は来るものだ。
 そんな場面に遭遇すると、側を通る私は、少しでも道の端に寄って、立ちションから離れて通過する。
 心の中で、
「すみませんねえ、オジさん、実に、お互い、悪いタイミングですね」と、話しかけながら。
 さすがに、女性が立ちションをしてるのを、この公園では見た事が無い。
 じゃあ、他の場所ではあるのか? と問われれば、我が生涯に、一度だけある。
 あれは、高崎の観音山だったか、彼女と行って、その帰り、ゆっくり山道を下っていた時だ。
 可愛い彼女で、もう少しで何とかなりそうな時期だった。
 すると、後ろから、浴衣姿の老婆がヒョイヒョイ、急いで二人を追い越して行ったのだ。
 長閑な、午後のひととき、この老婆、何を急ぐのか、と不審に思ったものだ。
 すると、10メートル位先で、いきなり、止まり、道路端の藪に向かって、決然と立った。
 はて、何だろう? 
 そう思って、私も彼女も、じっと佇立する老婆を見た。
 それは、例え、誰が、その場に居ても、そうするのが、ごく自然の行動だったと思う。
 藪に何か居るのか?   
 そしたら、その老婆、さっと着物の裾を捲ったと思ったら、萎びた尻を出して、立ちションをしたのである。
 とにかく、これには、参った。
 すぐに、それとなく目を逸らしたが、既に、遅かりし由良之助。私も彼女も、間違いなく、それを目撃してしまった。 
 更に、状況が悪い事に、私と彼女は、どんどん老婆に接近していたのだ。
 いくら、立ちションを目撃したからと言って、戻る訳にも、立ち止まる訳にも行かない。
 生憎、迂回路らしきものも、近くには無かったから、避ける訳にも行かなかった。
 我が人生史上、最悪のタイミングであった。
 二人が、すぐ近くに来た時、老婆は何度も尻を揺すって、ションの滴を振り切っていた。
 もう、これは最悪の最悪としか、言いようがない。
 それから、今度は、老婆、脱兎の如く、身を翻すと、二人の前を急ぎ足で歩き出した。
 これも、引き続きの最悪バージョン。
 即ち、老婆は、我々の後から、ゆっくりと歩き出すべきであった。
 もう小用を済ませたのだから、何も急ぐ事は無かった筈だ。
 見ると、すぐ前を歩く老婆の浴衣の裾、それは、ションで濡れて、一筋の川が途中で分かれて、二筋となって、裾の端で消えていた。
 この二筋の川を、またしても、私と彼女は、否応なく、見せられたのだ。
 もう、いい加減、勘弁してくれ、それが偽らざる、その時の私の心境であった。
 勿論、意識的に、歩く速度を私も彼女も遅くしたから、やがて、老婆の、忌まわしきション跡は、見えなくなるほど遠くなった。   
 漸く、ほっとした。
 しかし、何か、二人の間に、気まずい雰囲気が漂った。
 折角、ロマンチックな気分になって、坂を下りて来たのに、この様、ぶち壊しだった。
 あとで、考えた事だが、その老婆、恐らく、幸せそうなカップルを見て、故意に、立ちションを見せたに違いない。
 即ち、焼き餅を焼いたのだ。
 それで、二人の雰囲気を壊してやれ、と思ったのだ。
 そうとしか思えない。
 あれは、意図的で、極めて悪意のある、立ちションだったのだ。
 と言うのも、普通の感覚であれば、人気の無い所を選んで、立ちションをするのが、人情というものだろう。
 まあ、その老婆に、少しでも色気が残っていたら、あんな真似はしなかったと思う。
 人生、色気を失う事は、人間失格でもあるんですね。
 でも、もしかすると、あの老婆が育った時代は、人影が無ければ、ああやって、女性も、普通に立ちションをしていたのだと思います。
 それで、あの日は、我慢出来るだろうと思って、少し先にあるトイレまで急いだが、間に合わず、やむを得ず、とうとう道端でやってしまった、と言う事かも知れません。
 歳を取ると、尿意切迫症と言うのもあって、人によっては、トイレを我慢する事が出来なくなるんです。
 悪意と言うのは、彼女を連れていた私の、考え過ぎだったかも知れません。
 それにしても、立ちションの一連の動作、即ち、裾を捲ってから、萎びた尻を出すまでの、見事な手捌きと言ったら、あれは、もう、芸の域に達していたと思います。
 あっと言う間に、ションしてましたから、もう数千回もの動作が、これ以前に実行されていた事を物語っていました。
 うーん、二度と見たくないと思ってましたが、今、改めて思うと、あれは、既に、様式美になっていたかも知れません。
 であれば、ションの真似をした舞踊にでもすれば、人気を博すると思う。
 だから、もし、あれが若い女であれば、プリッとした、白い、お尻が出て来る訳で、それはもう、ストリップ劇場の、お客は拍手喝采で、ホールは、連日、超満員となる事は間違いないと思います。 
 加えて、美脚の踊り子であれば、お客は全員、もう発狂ものだと思います。 
 ところで、あの裾が、かなり濡れたのを見ると、あの老婆も、些か、立ちションの腕前が落ちていたのかも知れませんね。
 若い時は、きっと、一連の動作で、間違っても、着物の裾が濡れる事は無かったと、思います。
 さて、今日は、脱線しすぎて、もう本題に戻れなくなりましたので、これで終わりです。
<上州無線さん、その女の子とは、どうなりましたか?>
<うーん、帰りの車の中で話題に困ったな。さっき、見たものが強烈すぎてね。まさか、女性も、ああやれば、男と同じように立ちション、出来ますよね、とも言えないしね>
<で、結果的に、ヤレたんですか?> 
<それがだ、その後、彼女と会う度に、あの忌まわしい立ちションを思い出すから、妙な雰囲気でね。まあ、ほかにもあって、結局、駄目だった> 



俳句


老婆にも 青春時代 ありました