上州随筆俳句

 長くアマ無線をやってきましたが、一昨年、電信愛好家のためにパソコンによる電信自動送信装置「CWBOARDKK」を作りました。
 本ブログには、アマ無線の活動及び古稀世代の色々な方面について、感じたままの随筆と俳句が書いてあります。
 

山手線

 山手線に乗っていたら、若い男女が乗り込んで来た。
 男は195センチ位で、短髪。まだ、すごく若い。もしかしたら、現役の兵士かも知れない。海軍かも知れない。そんな気がした。
 大きな旅行用バッグを二個、太い両腕で引き摺っている。女の方は、黒髪で目が大きかった。
 風貌から察すると、二人はトルコ系の白人かと思われた。と言うのは、男の四角い顔は、よくトルコ人に見られる顔だからだ。まあ、確たる根拠は何もありません。
 私の真ん前に座った彼ら二人。対する老妻と私。
 ノースリーブの白い肩が、男にぴったりと寄り添っている。
 大きな体の男と対照的に、細身でスタイル抜群の白い女は、よく似合っている。
 いいなあ。ただ、感動した。
 二人を見つめながら、いつの間にか、私は、若い二人に祝福を送っていた。
 若い雄は、漸く、気に入った雌を見つけて、これから子供を産ませて、家族を作る。
 雄としては、その人生で一番、幸せで意欲に溢れている時代である。
 若い男は、丸太のような太い腕で大きな旅行バッグをがっちり掴んで座っている。
 その様は、恰も、傍らの綺麗な雌を絶対に、誰にも渡さないぞ、と言う気迫に満ちていた。
 もし、可愛い雌を奪いに来る敵が居たら、この雄は命をかけて、戦うに違いない。
 若い女も、いい男を見つけたね。この男なら、面構えからして、あんたを幸せにしてくれる事は間違いないよ。 
 その太い腕で抱きしめられたら、世界一、幸せな女ですよ。
 女の方は、写真などで見るアラビアの女に、よく似ていた。そう、テレビに時々、出て来る、よく知らないが、ローラという女に、かなり似ている。
 やがて、上野に着くと、彼らは降りた。私達も降りた。
 人混みの中で、男の両肩が浮かんで見えた。大混雑だから、女は必死に男にすがりついている。  
 やがて、見つめている内に、二人の姿は、ものすごい雑踏の中に、消えて行った。
 今夜は、何処のホテルに泊まるのかな。
 君たち、日本滞在を楽しんでね。
 もし、私がもう少し若ければ、あの若い男に、きっと話しかけていた事だろう。
 そうして、色んな話が出来た事だろう。
 夜、ホテルのベッドで、天井を見ながら、また、あの若い二人連れを思い出した。
 今頃、夜の街を歩いているかな。
 いや、混雑する街など見ても仕方ない。そうでは無くて、夜は、時間のある限り、抱き合っていればいい。抱き合う事が最高さ。
 それが、若い男の唯一の夢だ。女を力一杯抱きしめたいのだ。
 それは、また女の夢なのだ。 
 それにしても、見た事も無い、全くの他人なのに、何で、私は、あの若い二人の幸せを祈っていたのだろうか。 
 暫く考えている私に、いつしか、睡魔が襲ってきた。
 深い眠りに落ちていく中で、私は、やっと、ある事に気付いた。
 昼間見た、あの若い二人に、私は、50年前の自分を重ねていたのだと。
 


  俳句


 過ぎし日は 枯れ葉流離う 窓辺かな   <流離う(さすらう)>